470球目 俺のリミットはここじゃない

「ファール!」



 首の皮一枚つながった。だが、もうアウトコースへは投げられない。怖い。ストレートの球威はないし、チェンジアップのコントロールもままならない。



 東代とうだいがつかつかと歩み寄る。何のアドバイスがあるんだ。



「ミスター・ミズミヤ。振りかぶってピッチングして下さい」


「振りかぶって? でも、俺はセットじゃないとコントロールが……」


「ドントウォーリー。どんなボールでもキャッチしてみせます!」



 東代とうだいが胸を張る。野球始めた時はボールをこぼしまくりの男が、いつの間にこんな自信を……。



 そうだ。みんな、この夏で大きく成長している。俺もまだまだ成長できるはずだ。



 知らず知らずの内に、自分に限界を作っていた。



 刈摩かるまのコントロール、天塩あまじおのスピードボール、龍水りゅうすいさんの球威、超能力のない俺はどれも手に入らないと思っていた。



 そんな諦めを抱いていたら、俺は永遠にヘボPだ。親父の猛特訓を積んで、ずっとセット・ポジションで投げてきたが、この場面で俺は変身する、成長する。



 ゆっくりと振りかぶり、ランナーが進むのも気にせずに、大きく左足を上げて、東代とうだいのミット目がけて力いっぱい投げた。



(甲学園出場まであと2球)


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