452球目 アメリカでは一番優れた人がピッチャーをしない

 俺にヒットを打たれたショックか、黄崎きざき宅部やかべさんを四球フォアボールで歩かせてしまう。これで2死満塁、大量点追加の大チャンスだ。



津灯つとう、かっとばせー!」


「任せて、水宮みずみや君!」



 津灯つとうは初球からバットを振る。打球は真っすぐ俺の方へ――。



「グハァ!」



「ランナーアウト! チェンジ」



 しまったぁ。ランナーに打球が当たったらヒットになるが、ランナーはアウトになるんだ。とっさによけていたら……。



津灯つとう、すまん」


「ええよ、ええよ。1点あれば十分やって」



 津灯つとうはあっけらかんとしてマウンドへ行く。浜甲はまこう学園の野球部を復活させた彼女がラストを締めて、この試合は終わるだろうか。



「5番セカンド上村うえむら君」



 俊足の上村を抑えれば、勝利はグッと近づく。津灯つとうはセット・ポジションから左足を少し上げ、クイックモーションで投げる。



「ストライクッ!」



 132キロのストレートが外角高めアウトハイギリギリに入る。コントロール抜群だな、津灯つとう投手。多くの選手が100球のピッチングと10キロのランニングで済ませる中、1人だけ200球&20キロ走ったもんなぁ。



「ファール!」



 お次は内角低めインローのストレート。ノビがあるのか、打球が前に飛ばない。



「ストレートしかないぞ、上村ぁ!」



 今までベンチの奥にいた相手監督が表に出てきて、大声で指示する。かなり焦っているね。



 津灯つとうは1・2球目よりも素早く動き、下からトスのようにゆるいボールを投げた。



「ストラックアウトォ!」



 コントロールが良くて、緩急かんきゅうをつけられる津灯つとう投手。俺よりもピッチャーに向いているんじゃないか?



(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る