427球目 タッチアップを焦らない

 ポートタウンの村下むらした監督は東代とうだいのリードを読み切っていた。



 9人内野の場合、外野に飛ばされないよう、低目にストレートか変化球を集めるのがセオリーだ。



 投球練習を見る限り、水宮のストレートは走っておらず、逆球も多い。キャッチャーはリスクの少ない方へ逃げ、バルカンチェンジを要求した。



 村下監督は栄咲えさきにバルカンチェンジを狙い打つよう指示した。球種名は派手だが、実際はストレートよりやや遅くて少し落ちる変化球である。あらかじめわかっていれば、打てないことはない。



 相手投手のウイニングショットを序盤に攻略すれば、ゲームの主導権を握ったも同然だった。



「うううう! 絶対追いつくやん!」



 千井田ちいだは獣化していないのに四つんばいで駆け出す。地面スレスレのボールに飛びついてキャッチする。



「アウト!」


「ゴー!」



 3塁ランナーがホームへ走る。相手の守備力を見極めた上でのタッチアップはそつがない。



 兵庫県大会決勝、先制点を挙げたのはポートタウンだった。



(続く)

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