417球目 マル秘は見せられない

 神戸のとあるマンションのエントランス、村下むらした雷雨らいうが郵便受けを開けば、新聞と黒い封筒が入っていた。部屋に戻って封筒を開けば、浜甲はまこう学園㊙情報とラベリングがされたUSBが入っていた。



「マル秘? 今更こんなのあってもなぁ」



 そう言いつつ、彼はUSBをパソコンに挿してみた。中には、水宮みずみや千井田ちいだなど、浜甲はまこう学園の選手名のPDFファイルがある。それらをクリックすれば、生年月日や家族構成、学校内の成績、教師からの指導歴が詳細に載っていた。



「誰か知らんが、貴重なデータはありがたい。ちゃんと使わせてもらいますよ」



 村下はニヤリと笑い、朝食の準備を始める。



※※※



 神戸の洋館の間の小ぢんまりした公園で、柳生やぎゅう理事長夫人が園田そのだに電話をかけていた。



「夫は目覚めたかしら?」


「大丈夫っすよ。今、病院食をバリバリ食ってるとこです」


「良かったわぁ。あと、よろしく頼むわね」


「任せておいて下さい!」



 昨晩、積み木で遊んでいた理事長が急に倒れた時は、アンナの心臓は口から飛び出しそうになった。夫が死ぬよりも、理事長夫人の地位を失うことが怖かったのだ。



 彼女は園田そのだを夫の付き添いにして、職員室に侵入し、浜甲学園の選手のマル秘データを夜通し作っていた。全ては浜甲はまこう学園野球部敗北のために。とんでもない悪妻である。



「ちょっと眠ろうかしらん」



 彼女はベンチにもたれて眠り始める。目覚めたら浜甲はまこう学園が神戸ポートタウン大付属に負けてることを願いながら――。



(続く)

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