414球目 風の歌を聴けない

 村下むらした雷雨らいう神港しんこう大付属(現・神戸こうべポートタウン大付属)の野球部で、1年夏からショートのレギュラーになった。俊足好打で活躍するも、県大ベスト8止まりで、甲子園出場は果たせなかった。



 その後、冠光かんこう学院大学、佐藤電機に進むも、プロの指名はなく、肩の故障もあって27歳で引退した。



 彼はプロ野球選手になれなかった喪失感で、佐藤電機を退社し、自分探しの旅に出る。色んな日本の名所を回り、自分はどうあるべきか考えていた。



 ある日、東京ドームにて、彼は播鉄ばんてつジャガーズと大日だいにちラビッツの伝統の一戦を見ていた。大日のエース・小鹿野おがのが、播鉄ばんてつの4番・明藤みょうどうに対して153キロの速球を投げる。



 カキィーン!



 打球は高々と上がり、看板にぶち当たった。特大ホームランだ。



「うーむ。あのコースもダメか……」



 村下の前の座席の男が、パソコンにデータを打ち込んでいる。ディスプレイには、赤や青の色分けがされたコースが表示されている。



「これだ!」



 彼はビール缶を握りつぶしてホテルへ帰る。ホテルの部屋から神戸ポートタウン大付属高校の野球部監督に電話をかけて交渉し、特別コーチになることを認められた。



 3年後に監督になると、就任後わずか3年で甲子園出場をつかむ。3年連続で夏の甲子園出場を果たし、名実ともに兵庫県の王者になった。



 しかし、夏の甲子園は全て初戦敗退。全国大会で勝つチームを作るべく、データ班を各県に数名派遣はけんし、今年の夏に備えてきた。



 目指すは全国制覇。そのためにも、浜甲はまこう学園には絶対に負けられない。



(続く)

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