376球目 早起きは辛くない

 準決勝の朝が来た。少し体が重いが、心は落ち着いて軽い。下駄箱に行って、新聞紙を取って広げる。かまびすしいスズメの声が聞こえる。



水宮みずみや君、いつも早起きやね」



 津灯つとうが目をしょぼしょぼさせて話しかけてきた。



「中学ん時は4時ぐらいに起こされて、3キロぐらい走らされたからな。5時ぐらいに自然と起きちゃうよ」


「へー。水宮みずみや君のお父さん、スパルター」


「クソ親父だよ、全く。津灯つとうの父さんはどうなんだ?」


「あたしの父さんはええ人よ。うん」



 それ以上は話したくないのか、俺から目をそらして口をつぐむ。話題を変えるか。



「そういや、今日の刈摩かるま対策まったく出来てないけど、大丈夫なの?」


「ああ。あのシン・ワニワニパニックやり込めば、狙い球が来たらすぐ反応できるって、東代とうだい君が言ってたよ」



 そこまで考えて作られてたのか、あの機械?



刈摩かるまをノックアウトするのは難しいから、ロースコアのゲームになりそうだな。出来るだけ0点に抑えるよ」


「頑張ってね!」



 津灯つとうの笑顔は周囲を明るくする。どんな時も前を見すえて、希望を捨てない。彼女と一緒なら、甲子園出場だって叶えられる。俺は右手で握り拳を作って、静かに闘志を燃やした。



(続く)

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