371球目 ノーヒットノーランを喰らいたくない

 準々決勝の良徳りょうとく学園VS冠光かんこう学院は、良徳りょうとくが3-0でリードしていた。先発ピッチャーの刈摩かるまは、何と9回2死まで1本もヒットを打たれていない。



 ただ疲れが出て来たのか、2つの四球フォアボールを与えてしまう。もうアイアンボールは投げられない。尊宮たかみや監督はベンチを出て、スタンドの刈摩父かるまパパを見つめる。



 降板させてほしい時は両手で×印を作るが、まだ腕を組んだままである。監督は伝令をマウンドへ送り、最後のかつを入れた。



刈摩かるま、頼むで、頼むで」と、監督は両手をすり合わせて祈るように見つめる。



 ホームランが出れば同点の場面。打席には2番の鷹杉たかすぎ、粘りと足に定評のある嫌らしいバッターだ。



 刈摩かるまが投げたど真ん中低目のストレートを、鷹杉たかすぎはバントしてきた。



「捕ります!」



 刈摩かるまはサードの花名はななの前に出て、自らボールを捕りに行く。素手でつかみ、忍者の手裏剣しゅりけんのようにファーストへ投げた。



「アウト!」



 間一髪でアウトになった。普通に投げていればセーフで、ノーヒットノーランが消滅していた。



「ぐぅ、ううう、あああああああ!」



 鷹杉たかすぎは天に向かって叫ぶ。彼は高校最後の打席で、ノーヒットノーラン最後のバッターという屈辱を味わったのだ。これからずっと悪夢で見ることだろう。



 一方の刈摩かるまはキャッチャーの神川かんがわに抱き上げられて、喜色満面である。



「ふぅー。あっぶなかったぁー」



 尊宮たかみや監督は汗をハンカチでぬぐって、準決勝の浜甲はまこう学園対策を考え始めていた。



(続く)

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