302球目 水宮君と私が付き合える日まで待てない

※今回は兵庫連合の宮田みやた洋子ひろこ視点です。



兵庫のスーパー1年生現る! 18Kの快投


 25日、高校野球の兵庫県予選4回戦、浜甲学園VS摩耶にて、快記録が生まれた。浜甲学園の投手・水宮塁は、MAX139キロのストレートと100キロ台のチェンジアップの緩急で、4回2死まで10奪三振のパーフェクトピッチングを披露した。その後、アクシデントで降板するも、5回から8回にかけて再登板して8奪三振、計18個の三振を摩耶打線から奪った。試合は浜甲学園が終盤に逆転し、5回戦に進出した。試合後、水宮投手は「東代君の好リードのおかげですよ。あと4つ勝って甲子園出られるよう、頑張ります」と語っている。なお、浜甲学園の野球部は(後略)



「なぁに、ニヤニヤしとんやし」



 瀧口たきぐち君が声をかけてきて、現実に引き戻される。私達は宝塚たからづかの安いホテルに泊まっていた。この部屋はエアコンの効き目悪いし、学校の放送室より狭くて嫌やし。まっ、映画館やカラオケがない地元よりマシやけんど。



「ちょっとぉ、部屋入る時はノックしろやし」


「100回ぐらいノックしたで。ここのドアがへっこむぐらいになぁ」



 瀧口たきぐち君の右手が真っ赤だ。かわいそうに、私って、ホンマ罪な女やし。



「ごめんね。水宮みずみや君のこと考えたら、全然周り見えんくなって」


「んまぁ、ええやし。そんで、次の試合はそいつと入れ替わるんか?」


「うん! 今日の細竹ほそたけと違って細身やし、顔は私好みやし、ホンマ早よ入れ替わりたいわぁ」


「えー。このダンスグループの隅っこにいそうな顔のどこがええんやし」


「ちょっとぉ、クローズド・サークルですぐ殺されそうな優男やさお顔は黙っといてくれやし! ハァ、水宮みずみや君と映画行ったり、茶ぁしたりしたーい」



 都会の喫茶店でデートは、田舎娘の私にとって、超のつく憧れやし。ドラマみたいに、オシャレな恋をしてみたいわ。



「女お笑い芸人のボケみたいな顔して、なぁーに、夢見る夢子ちゃんやっとんねん」


「うっさい、帰れ! もう二度と入ってくんな!」



 私が枕を投げつけたら、瀧口たきぐちは部屋から出て行く。これで、この部屋は私と水宮みずみや君(妄想)だけの世界やし。



「私が甲子園行ったら、毎日デートしようやし」



 私はそう言って、新聞記事の小さい水宮みずみや君の顔にキスした。



(続く)

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