223球目 バントマンがバントしない

 夏大の公式戦と追試が重なったため、真池まいけはカンニングバード作戦が使えない。そこで、東代とうだいの予想問題集と本賀ほんが伝授の速読術で、生まれて初めて猛勉強した。



 その甲斐あって、彼の集中力と動体視力は研ぎ澄まされ、どんなボールでも打てるゾーンに入っていた。



「ピンチヒッター・真池まいけ君ねぇ」


「ラジャー!」



 真池まいけ烏丸からすまに代わって、打席に入る。彼はギターをかきならすフリをしながら、バントの構えをする。



 六甲山ろっこうさんの内野陣は、じわじわ前進する。簡単に送りバントを決めさせないと言うはがねの意志だ。



 豊武とよたけはライズボール(ペガサスフライ)を投げる。



「ボール!」



 真池まいけはバントしない。彼の眼には、ライズボールの軌道きどうが、飛行機雲のごとくはっきり見えた。



 2球目はインローのストレート。真池まいけはバットを引いて、打った。



「ロック・ミー・アマデウス!」



 打球は前進守備の安仁目あにめ大縞おおしまの間を抜けていく。ライト前ヒットになった。



「クソッ! バスターかよ」



 豊武とよたけはマウンドの土を蹴って、馬鼻息を荒くする。



 続く火星ひぼしは空気を吸って膨らませた腹でデッドボール。1死|満塁《

フルベース》のチャンスを迎える。



 ここで、飯卯いいぼう監督は東代とうだいに替えて、代打の神様・本賀ほんがを送る。名捕手を替えるリスクより、点差を縮められるリターンを取ったのだ。



 六甲山ろっこうさんベンチはタイムを取り、伝令の灰地はいじをマウンドへ送った。



「じいちゃんは何て言っとった、かえでちゃーん?」



「絶対に1点もやるなって、入れ歯飛ばしながら叫んどったよ、大縞おおしまキャプテーン」



「誰が大縞おおしまや!」



 大縞おおしま灰地はいじの顔に向かって唾を飛ばす。



大縞おおしまちゃうんか?」



 安仁目あにめがニヤニヤしながら、大縞おおしまを見ている。



「ハッ! いや、失礼。1点もやらへんってことは、外野に飛ばされたらアウトや。コントロールに気ぃつけや」


「もちろん。ついでに、9人内野にして、相手にプレッシャーかけましょ」


「さすが豊ちゃん❤ 発想がラスボスー❤」



 六甲山ろっこうさんナインは同点を恐れぬ攻めの“9人内野”シフトを取る。



 はたして、この勝負、どちらに軍配が上がるだろうか。



(続く)

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