211球目 馬女のボールは落ちない

 馬牛バッテリーは獣化したまま、俺達と相対する。うちの千井田ちいださんは獣化が早く解けるが、彼女たちはそうじゃないらしい。かなり厄介だな。



水宮みずみや君、獣化したら球質変わっから、じっぐり打つだよ」


「わがっだフガ」



 前のトラ塩は変化球が鋭くなったが、馬の豊武とよたけはどう変わるだろう。彼女の指は、小指から人差し指がひづめと化して1つにつながっている。



 初球は見送る。アンダースロー特有の下から上へ浮き上がるストレートだ。



「ストラ―イクッ!」



 打てないことはない。2球目も同じボールなら引っ張るぞ。



 2球目も同じ、打つべし!



「ファール!」



 やや振り遅れてしまったか。だが、ピッチャーとして何回もこの太い体を動かしてきたから、普段通り打てそうだ。3球目で決める。



 次は遅い、チェンジアップか。バットを意図的に下げた。



「ストラークアッ!」



 ボールがありえないほど浮き上がった。低目から高目へ上がる、さながらソフトボールのライズボールだ。



「何なんだ、あのボールは!」



 俺はバットをケースに乱暴に入れる。



「あれはグラブトスのイメージでピッチングしたものですブハ」


「グラブトス?」



 東代とうだいは親指以外の4つの指を引っつかせて、下から上へ振り上げるフリをする。



「トスすると、ボールはハイコースになることがありますブハ。それをアプリケート応用したボールです」


「そうか、あの馬の指はグローブ代わりか。フッガー!」

 


 1回裏の3点が、急に道頓堀どうとんぼりの看板のように、巨大に見てきた。



(続く)

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