205球目 急激に太りたくない

 試合前のあいさつに向かうが、体が異常に重たい。鎧をつけているかのごとし。



「よろしくお願いしまーす」



 相手のあいさつが頭に響く。あまり大きな声を出さないでくれよ。暑い、アチィ、手であおごう。



 あっ? 俺の手って、こんなグローブみたいにむくれてたか? 腕は丸太、腹がビールだる、両足がゾウのようだ。顔を触ってみれば、もちのようにふっくらしている。



 もしかして、俺は太ってる?



「イヤー! 何ごれぇ!?」


「僕の顔が……。夢であっでぐれー!」


「異常肥満化プクプー」



 俺以外の奴も肥えている。ただ1人、番馬ばんばさんだけが元の体型を維持している。



ノーウェありえないイ! イフもしや、ゲーム前に飲んだ、ミルクのエフェクト影響でしょうか。ブハッ!?」


「マジかよ……。あいつら、グソォ、フガー」



 首回りが脂肪に覆われているせいか、いつもより息がしづらい。こんなんで野球できるのだろうか。



※※※



 肥満化する浜甲ナインを横目に見ながら、マウンド上の六甲山ろっこうさん豊武とよたけ戸神とがみ大縞おおしまキャプテンがほくそ笑んでいる。



「まさか、こんな上手くいくとはなぁ」


「えへっ❤ いつもより、体重盛りモリかモォ❤」


「実験で何度太らされたことか。あれで2時間ぐらい持つもんな」



 大縞おおしまは自らの腹の肉をつまみ、一息吐く。身動きできぬ肉塊にくかいに変えられた時を思い出し、首筋冷たい汗が流れる。



「さぁ。ちゃっちゃと終わらせよか」



 豊武とよたけはボールをグローブに勢いよく入れ、臨戦モードに入った。



(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る