203球目 牛乳を一気飲みしない

 7月16日、淡路あわじオニオン球場にて、俺達の2回戦がプレイボールだ。



 前の第1試合では、満賀まんが高校が灘関なんかん高校に5-3(8回途中、降雨コールドゲーム)で勝利した。この試合に勝てば、番馬ばんばさんの因縁のライバルがいる満賀まんが高校と戦うってワケだ。



 今から、先攻・後攻を決める主将同士のじゃんけんを行うはずだが、妙な展開になる。



「あのー。じゃんけんは俺らの負けでええんで、その代わり、これ飲んでくれます?」



 六甲山ろっこうさん牧場高校の主将が、牛乳瓶が詰まったケースを差し出してきた。彼は顔と体ともに細長く、通行人Aのような地味な顔立ちだ。



「牛乳やとー? 毒盛っとんちゃうか?」


「そんなヤバイことしまへんって。何なら、俺が飲んでみせますさかい」



 主将はケースの中の牛乳を取り、一気に飲んでみせる。



 彼が飲み終わると、顔中に白と黒の毛が生えて、ボーダーコリー獣人になった。



「プハー。とても美味しいなぁ。皆さんもどうぞ」



 彼は口周りの牛乳を舌でふき取る。津灯つとうがおずおずと牛乳瓶に手を伸ばし、おもむろにフタを取って飲み始める。



「ンッンッンッ。プハァー。すごく美味しー! こんなフルーティーな牛乳、めっちゃ初めて!」



 津灯つとうの反応を見た俺達は、次々と牛乳を飲み出す。



 たしかに、学校の牛乳と比べるのが恥ずかしくなるぐらい、とても美味しいのどごしハッピーな牛乳だった。



「あれ? 番馬ばんばも飲めよー。めっちゃ美味しいぞ」


「いらん! 牛乳は飲まん!」



 烏丸からすまさんがすすめても、番馬ばんばさんは断固として飲まない。



「美味しかったわ。この牛乳と合う料理を作りたくなってきちゃった。ありがとう!」



 グル監は犬キャプテンの手を握って、感謝の言葉を伝える。



「いえいえ。皆さんの生の感想が聞けたので、とても良かったです。生産者も、きっと喜ぶと思います」


「そうね。牛乳を作ったおん……」


「あっ! ところで、先攻と後攻、どっちにします」



 グル監が何か言いかけたところをさえぎるようにして、犬キャプテンは慌ててしゃべる。



「先攻にしまーす」


「あざっす! じゃ、他のメンバーにも伝えときますねー」



 彼はケースを頭の上に載せて、そそくさと仲間の元へ駆けていく。なーんか怪しいんだよなぁ、あの人。



(続く)

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