132球目 同点にさせたくない

 6番のベイルは2メートル近い長身で、アメリカの黒人警官風の見た目だ。打撃練習では、チーム1の飛距離を誇っている。



 しかし、針井はりい美月みつきよりも確実性が低いので、6番打者なんだろう。



 東代とうだいのサインはアウトコースにストレート。目には目を、歯には歯を、パワーにはパワーを。今日イチのストレートを投げこむ。



「ジャスト!」



 ベイルが踏み込んで、打った! 打球は俺のはるか上空、センター方向へ、山科やましなさん頼む!



 しかし、打球は山科やましなさんの頭を越えてしまう。3塁ランナーはホームイン。2塁ランナーも3塁を蹴ってホームへ向かう。



「バックホーム!」


「みんな、僕の魅惑みわくの肩に注目ぅ!」



 山科やましなさんは目を銀河系に輝かせながらボールを投げる。ボールが虹の軌道を描いて、東代とうだいのミットにドンピシャ。



「アウト! チェンジ」



 危なかったぁ。山科やましなさんの強肩がなかったら、同点だったよ。



 ベンチに戻れば、グル監が笑顔で俺達を迎える。



「ラッキーセブンよ! みんな打って行こう! ハイ、ヒット祈願のリンゴ」



 小さく切られたリンゴを皆で分け合う。なぜか、刈摩かるまもリンゴの切れ端を食べている。



「そろそろ、天塩あまじおもバテてくる頃だな」


「君と僕とで引導を渡してあげよう」



 俺と山科やましなさんはウインクをかわす。



「君達、あの天塩あまじおを甘く見ない方がいい。彼は森林の王者・トラの力を持っているのだから」


「うっ! トラ……」



 シジュウカラ姿で偵察時に出会った天塩あまじおを思い出す。あの猛獣に睨まれたが最後、足がすくんで動けない。



「フン! トラだろうが、一休さんだろうが、僕達に来た流れは止まんないよ!」



 山科やましなさんの目は輝きを増して、超新星爆発を起こしている。



※※※



 7回表は俺から始まる好打順だったが、球速が増した天塩あまじおの前に三者三振に終わった。



(続く)

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