130球目 寅吉監督は怒鳴らない

 浜甲はまこう学園VS阪神はんしん体育大学付属の試合は、手に汗握る投手戦になった。



 天塩あまじおは2点を失った3回以外は、毎回のように三振を奪う。6回2安打9奪三だつさんしん振という剛腕ぶりだ。



 一方の水宮みずみやは毎回のようにヒットを打たれるが、要所を抑えて無失点を続ける。烏丸からすまのホームランキャッチ、真池まいけの「フラッシュ」キャッチなど、ファインプレイが続出したのも大きい。



 寅吉とらよしあきら監督は、6回裏の攻撃の前に、ナインをベンチ前に集める。



「去年の秋の大阪大会の優勝校はどこや?」



 寅吉とらよし監督は渋めの低い声で問いかける。



「わが校です!」



 キャプテンのそうが瞬時に答える。



「今年の春の大阪大会の優勝校は?」


「わが校です!」



 寅吉とらよし監督はタメ息を吐いて、扇子せんすをへし折る。



「大阪で一番強いチームが、兵庫のようわからんチームに0点に抑えられるのは当たり前か?」


「違います!」


「違うよなぁ? そんなら、この回は絶対に1点取れ。ええな?」


「はい!」



 全員同時に元気いっぱいの返事をする。寅吉とらよし監督は安心の笑みを浮かべてこう言う。



「あと、この回で得点につながるプレイ出来へんかった奴は、二軍落とすからな。そのつもりで」


「は、はい」



 寅吉とらよし監督は、女たらしなおじ(阪体はんたい大付属高校の校長)と違い、男気あふれる硬派だ。10年前に母校の監督に就任し、5回のセンバツ全国大会出場に導く。しかし、夏大の全国出場はまだない。



 OBから夏に弱いと散々言われたきただけに、今年の夏にかける意気込みは人一倍である。そのためにも、こんな相手に負けるわけにはいかない。



 寅吉とらよし監督は唇をかんで、相手チームの選手を殺し屋のようににらむ。その鋭い眼光は何を狙うのか?



(続く)

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