129球目 理事長夫人の気が持たない

「キー! 何なのよぉ!」



 屋上の柳生やぎゅうアンナは地団太を踏んで怒り狂う。



「だ、大丈夫やって、アンナちゃん。うちのチームは10点打線や。あんなヘボピー、すぐ打てる」


「そうですよ、柳生やぎゅう夫人。二回り目なら、確実にとらえられます」



 阪体はんたい大の校長・教頭コンビになだめられて、アンナはムスッとした顔でパイプ椅子に座る。



「そうね。あんな小技は2度も使えない。ホームランで決めちゃいなさい、阪体はんたい打線」



 デヴィッド真池まいけが「テイク・オン・ミー」バントを決めるも、津灯つとうがライトフライに倒れてチェンジ。



 3回裏の阪体はんたい大付属打線の攻撃が始まる。



 先頭打者の酢浦すうら死球デッドボールで出塁する。



「走れ、走れー!」



 アンナの期待どおり、酢浦すうらが初球から走る。東代の“右手”がボールをつかみ、セカンドの宅部やかべへ送球。ボールの方が酢浦すうらの足より速かった。



「タッチ、アウト!」



 アンナの唇が小刻みに震える。喜田きだ教頭がさっと水の入ったコップを差し出す。



「次は高校通算打率5割2分の辺田へんだ君です。打ちますよ!」



 恋のノルマ3安打に向けて燃える辺田へんだは、ライトオーバーのヒットを放つ。彼は1塁を蹴って2塁へ向かう。ハクセキレイの足は止まらない。



 ここで、火星ひぼしがボールを山科やましなに渡す。山科やましなは3塁へ大遠投。ロングスローで鍛えた強肩が発揮される。



「アウト!」



 アンナの双眼鏡を持つ手が、地震のごとく激しく揺れる。



「喜田! 次のそうは打つよな?」


「もちろんです! そうは高校通算66ホーマーですから」



 水宮の高めに浮いたストレートを、そうのバットがとらえる。レフトフェンスを越えるホームランかと思いきや、飛んだ烏丸からすまのグローブが打球をつかむ。



「アウト! スリーアウトチェンジ!」



 死球、2ベースヒット、ホームランで3点入るはずが、盗塁死、走塁死、レフトフライで0点。

 


 アンナは大口を開けて、石像と化してしまった。



(続く)

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