60球目 練習試合に実況はつかない

 記念すべき高校生活初めての試合。



 2週間前の野球をやらない決意をしていた自分に、今の景色を見せてやりたい。



 野球場の中で、1人だけ高い位置にいるピッチャー。城(塁)を奪おうと襲いかかる敵(打者)を殺していく快感を味わえる。



 やっぱり、自分は生まれながらのピッチャーなんだな。



「レッツ、エンジョイベースボール!」



 東代とうだいが「しまっていこー」の代わりの大声を発する。四方八方から「オー」と聞こえてくる。高校野球らしくなってきたぜ。



「プレイボール!」



 球審(パソコン研究会部員)が手を挙げて試合開始を告げる。



 花丸はなまる高校(3軍)の1番ファースト永井ながいは、打席に入っても盛んに素振りをしている。IQ156東代君は、そんな強気なバッターに何を投げさせるのかい? おっ、低めのストレートか。高校初のボールだから、全力で投げるぞ。



 足を上げて、腕を振って、ファスト速いファーストボール第1球を投げこむ。げっ、いきなり打ってきた。打球は三遊間を抜け、ない。津灯つとうが腰を落としてしっかり捕って、ファーストへワンバウンド送球。



「アウト!」



 一塁塁審(花丸高校の野球部員)の声を聞いて、俺は空に向かって息を吐く。真池まいけさんがエラーしなくて良かったぁ。



 2番センター川嶋かわしまは、耳がエルフみたいに横に尖っている。聴力が高い超能力者だろうか。



 初球・2球目ともに、低めのチェンジアップを見逃した。カウントはノーボール2ストライク。



 2球とも石像みたいに微動だにしなかった。常識的にいけばストレートだけど、東代とうだいのサインは外から内に入るスライダーだ。左打者にその球は危ないんじゃねぇの。



 東代とうだいは打者から離れて、遊び球を投げる雰囲気をかもし出している。まだ2週間なのに、中々やりよる。



 俺のスライダーは東代とうだいの予測どおり、ボールゾーンからストライクゾーンに入った。



「ストラック! バッターアウッ!」



 エルフ君は目を真ん丸にして、ミットに入ったボールを見ている。高校初めての三振が初回に奪えて、ラッキー。



 3番ライト藤原ふじわらは、2球目の高く浮いたストレートを打つ。だが、センターの山科やましなさんがフェンス手前で捕ってくれて、スリーアウトチェンジ。



 3軍だけど、花丸高校打線を0点に抑えられたぜ!



(続く)

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