61球目 コントロールがよろしくない

 花丸はなまる高校のピッチャー(左)の椎葉しいばは、130キロ台のストレートとシュート(左打者の方へ曲がる)とたてスラを持っている。キャッチャーの構えたところと逆にいったり、高めに浮いたりするので、コントロールは悪そうだ。



「ノーコンの速球派は、立ち上がり悪いの多いから、みんな初球から行こうね」



 津灯つとうは俺を見ながらしゃべっる。いや、俺は速球派だが、コントロールはそこまで悪くないぞ。



 浜甲はまこうのキャプテン兼リードオフマンの津灯つとうが左打席に入る。椎葉しいばはキャッチャーのサインにうなずくと、振りかぶって、あごを突き出して投げる。



 金属バットの快音が響き渡る。渾身こんしんのストレートをセンター前にクリーンヒット。さすがキャプテン、有言実行でカッコいい。



 2番の真池まいけさんはバントの構えをする。右足がリズムを刻み、何か口ずさんでいる……。



「ゲームセットは聞こえない~」


「おい、あんた、ちょっと静かにすると」



 相手キャッチャーはあきれ顔で言う。



「ノー。せっかく、浜甲はまこう野球部のオープニングテーマが浮かんでたのに。しかたない。心の中でミュージックプレイしよか」


「オ、オープニングテーマ?」



 ロックンローラーの独特な感性に、生粋きっすいのベースボールプレイヤーはついていけない。



 真池まいけさんは「ドントムーブ、ドントフィール!」と叫びながら、鮮やかにバントを決める。ピッチャーとサードの間の絶妙なバント。津灯つとうは二塁に進み、真池まいけさんはアウトになった。



浜甲はまこう野球部、ファンクラブのみんなのために、僕は打つ!」



 無駄に目がキラキラした山科やましなさんがバットを高々と持ち、ホームランバッターの構えをする。次々に現れる変な奴に、相手キャッチャーは顔をしかめている。



 山科やましなさんの魅惑みわくの瞳のせいか、椎葉しいばのコントロールは乱れに乱れ、3-2のフルカウントに。山科やましなさんは6球目の外角低めのストレートを打ったが、足がタンスに当たったような鈍い音を立てて、ボテボテのファーストゴロになってしまう。津灯つとうが三塁に進んだから、良しとしよう。



「相手ピッチャー、かなり球威きゅういあるよ。気ぃつけてな」



 ネクストバッターズサークルの俺に、山科やましなさんが耳打ちしてくれる。



「わかりました。必ずキャプテンを返しますよ」



 皆が4番の俺のためにチャンスを作ってくれた。絶対に1点取るぞ。



(続く)


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