22球目 小説にBGMはつけられない

 軽音楽部の部屋は、2年F組の教室だ。そこから、ハードロックな音楽が聴こえてくる。



「失礼しまーす」



 ドアを開けた俺達が見たのは、ヴィジュアル系シンガーだった。



 ハリネズミのごとく無数の尖ったオレンジ髪、中央に黒い五芒星ごぼうせがある赤いバンダナ、紫のアイシャドウ、黒い口紅という、悪夢に出てきそうなヴィジュアルだ。背は俺や津灯つとうよりはるかに低いが、威圧感があった。さらに、電子ギターを演奏しつつ、ドラムを足で踏みならし、時折ハーモニカを吹くという離れ技もやってのける。



 俺達は思わず握手してしまう。



「デヴィッド真池まいけの軽音楽部へようこそ! 今日からオレと一緒に、ロックな毎日を送ろうぜ!」


「ごめんね。あたし達、あなたを野球部に誘いに来たの」


「野球部だって? またオレはロンリーデイズか……」



 彼はため息を吐いて、西部劇のようにギターをかき鳴らす。会話に英語を挟むのは東代とうだいと同じだが、歌うように発音するところが異なる。



「うー、やはり、オレのソウル・ミュージックにふれないと、ユーの気持ちは変わらないということか。今から聴かせてあげよう、なぜ軽音楽部がオレ1人になったのかを。『Lonelyロンリー Musicミュージック Manマン』」



 真池まいけはギターを鳴らしながら歌い始める。その歌声は女性と聞き間違えるほど高かった。




Lonelyロンリー Musicミュージック Manマン

作詞・作曲・編曲:デヴィッド真池


期待を胸に 軽音楽部に入る

先輩の演奏プレイ 楽しくて心躍る

しかし気になるよ 歌声やギターのテク

オレが先輩に 手本を見せたなら


Uh Lonelyロンリー Musicミュージック Manマン


どれだけレベルアップ求めても

先輩はついてこれやしない

去っていく 音楽以外の道見つけて

教室は オレ1人だけ


I want a new member

I seek stimulation

I wander in loneliness

You don't know the number of my tears……




 彼は歌い終わると、首をななめにかたむけ、俺達を手招きする。いや、今は音楽やる気はないから、丁重にお断りしたい。



 津灯つとうは一切かまうことなく、真池まいけに近づいて、野球部の良さを話し始める。



「野球場は音楽で満たされていて、真池まいけさんにピッタリやと思うよ」


「応援ソングのことかい? オレは演奏を聴きたいんじゃない、弾きたいんだ」



 真池まいけは一向にうなずこうとしない。彼はドラムセットに座って、一心不乱にドラムを叩き始める。



「抜群のリズム感、激しく演奏してもバテない体力、是非とも野球部に入ってほしいのに」



 津灯つとうが歯がゆい顔を見せる。野球部入部を賭けた音楽勝負をやるしかないだろう。



(水宮入部まであと4人)

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