21球目 草刈りはしたくない

 野球グラウンドゴミ捨て場に着くと、山科やましなさんとファンクラブの皆さんが草刈りをやっていた。



「君達、遅いやないかぁ! 先輩より早く来ないと」



 山科やましなさんは鎌を持ち上げて起こる。



「悪いなぁ。俺様が津灯つとうと遊んでて遅なったわ」


「ったく。えっ、番馬ばんばさん?」



 山科やましなさんは番馬ばんばさんに気づくと、急に黙り込む。番馬ばんばさんは相手が泣くまでなぐるのをやめないらしいから、そりゃ怖いよな。



「先輩達、ありがとうございます。それじゃ、皆で草刈りしよ」


「OK。クリーンなグラウンドをオープンしましょう」



 グラウンドの草刈りで夕方までかかり、勧誘かんゆうが出来なくなるのでは?



 と期待したが、番馬ばんばさんの怪力、津灯つとう俊敏しゅんびんさ、東代とうだいの除草機の開発により、わずか2時間で片付いてしまった。

 


 時刻は3時半。他の部活はまだまだ活発な頃だ。



「ハァー、疲れたぁ。あたい、もう動けへん」


「子猫ちゃんは、ほとんど寝てたやろ。少しは番馬ばんばさんを見習いたまえ」



 山科やましなさんは、三塁ベースを枕にする千井田ちいださんとしゃべっている。番馬ばんばさんと同学年なのに、「さん」づけするあたり、やっぱり怖がっているな。



 当の番馬ばんばさんはバットを刀みたいに振り下ろして、「死ね、死ね」と連呼してい

る。近寄ったらダメなやつだ。



「ミス・ツトー、少しパソコン研究会に行ってきます」



 東代とうだいが申し訳なさそうに頭を下げる。



「うん、行ってらっしゃーい。よし。そろそろ、あたし達も探しに行こか」



 津灯つとうがすっくと立ち上がり、俺もやれやれと立ち上がる。



津灯つとう、次はどこに探しに行くんだ? サッカー? 水泳?」


「うーんとね。やっぱ、狙い目は1人で活動している部活かな。野球部入ってワイワイやろと言ったら、食いついてくると思うから」


「そんな部活あるのか?」


「あるで。軽音楽部が1人だけやったはず」



 山科やましなさんが左右の瞳をフラット#シャープに変えて教えてくれる。軽音楽部の名前が出ると、ファンクラブの女子達が顔を寄せ合って何か話し始める。皆が浮かない表情なので、この部員もクセが強いのだろうか。



「じゃあ、そこに行こか、水宮みずみや君」



 俺は「おう」と答えて、彼女と一緒に歩き始める。最初は嫌だった野球部員集めも、何か満更まんざらでもない気がしてきた。



(水宮入部まであと4人)

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