11球目 あなただけ見つめてる場合じゃない

 バスケ部の練習終了後、津灯つとう山科やましなさんのフリースロー対決の火ぶたが切って落とされた。実況は俺、解説は山科やましなファンクラブ三名でお送りする。なお、千井田ちいださんは山科やましなアレルギーによる体調不良のため、体育館の隅で丸まって寝ている。



延手のぶて先輩、山科やましな先輩はフリースロー得意なんですか?」



 ひょろ長の延手のぶてさんはペンライトを振りながら答えてくれる。



「得意中の得意よ。どこから投げても入れるから、まさにカッコ良さの化身けしんやわ」


「野球で外野を守っておられたから、肩に自信があるわね」



 ティッシュのように白い肌の雪下ゆきしたさんがボソッとつぶやく。



「あの程度のフリースローやったら、永遠に入れ続けるって。あの子、津灯つとうさんだっけ? 津灯つとうさんは山科やましなファンクラブの一員になったも同然よ」



 アンパン顔の千針せんばりさんは手帳を開くと、英語の筆記体に似た達筆で何かを書く。“津”や“研”、“訓”などが読めたので、ファンクラブ新メンバーの特訓だろうか。



「先に入れてもいいですかぁ?」


「どうぞ、どうぞ。レディファーストやからね」



 ペイントエリアギリギリに彼女は立ち、ソフトボールを上から投げる要領で、バスケのボールを放った。見事にそのボールはゴールネットに入る。



「ナイススロー! じゃ、今度は僕が」



 山科やましなさんは津灯つとうにアイドル並みのフラッシュウインクを送る。彼はボールを高々と持ち上げて、軽くジャンプして投げる。これもゴールネット内に入った。



「2人とも落ち着いてるなぁ」


山科やましな君なら当然やって。あの人は数々のプレッシャーに勝ってきたんやから。30回ぐらいで決着つくって」



 千針せんばりさんが鼻息荒く力説する。俺も津灯つとうが負けて、野球部勧誘かんゆうタイムが終わればいいと思っていた。



 しかし、千針せんばりさんや俺の思惑と裏腹に、フリースロー対決は100回越えのロングバトルになったのだ。



(水宮入部まであと6人)

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