【書籍試し読み版】聖獣と一緒！～ダンジョン内に転生したからお店開くことにしました～

プロローグ

　大学からの帰りだった。揺れるバス車内で、一人ぼんやりしていた。

　忙（せわ）しなく歩いてる人達を眺めながら、今日は昨晩作って寝かせたカレーがきっと美（お）味（い）しくなってるだろうとか、課題やんなきゃだとか、楽しげに話してる高校生達が眩（まぶ）しいなぁとか、昨日のゲームの続きがしたいとか、とりとめのない事を考えてたらストンと寝入ってしまった。足元にもしっかり利いた暖房に眠気は増長する一方。逆らえないよなぁ、うん。

　その後突然、黒板を引（ひ）っ搔（か）くような不快音に意識を引き戻され、目を開けたらすぐ窓を挟んだそこに車のタイヤが見えて。

　死んだ。と思った。

　ガラスが割れる音と表現できない衝撃を感じた直後、ふっと視界が真っ暗になったと思ったら、何（な）故（ぜ）か聞き慣れない声がした。

「あ、こいつ勇者じゃないじゃん。もー、だから生（いけ）贄（にえ）系の召喚は嫌なんだよなぁ。余計な手間増やしやがって」

　ん？　なんか、場違いな声が。若い男の人の声だっていうか、内容が厨（ちゆう）二（に）……え、勇者？　いけにえって、何の事？

　何故か目が重たくて開けられない。変な事言ってる奴の顔を拝んでやろうと思ったのに。

「もう体は死んじまってるし、このままじゃあなぁ……しゃーねぇ。こっちに入れてやるかぁ。輪（りん）廻（ね）に流しゃなんとかなるだろ」

　突然ぐいっと引っ張られる感覚がして、声が急速に遠ざかっていく。

　絶対睨（にら）んでやろうと思ったのに！　変な奴から離れていくのが感覚でわかる。くそう、悔しい。

　いやでも今ならまだ間に合う？　顔をはっきり覚えて、次会った時には言ってやるんだ、厨二病乙って!!　よーし!!

　だから、私の目、開けぇえええ!!

「は？　あ、バカ！」

　目元にぐぐっと力を入れた途端、流されてた場所から放り出された感覚がした。

　え、なに？　何が起こってんの？　私どうなるのバンジーでもしてるのかってくらいの速度で落ちてるよね体感そんな感じだね!?　あ、私今度こそ死ぬだってこれ紐（ひも）なしだよね!?　てか死んでる!?　二度死ぬの!?　待って無理怖いでも口が開かないから悲鳴も出ない!!

「（やぁああだぁああ!!）」

　そして私の意識は真っ黒に吞（の）まれた。