第18話 バイトします

「リッカちゃんに聞いたよ、友達いないって。先に言ってくれてれば話は早かったのに」

 いきなりそんなことを言われてもなんの話をしているのかさっぱりだ。しかもアイシャの言葉は若干ながら俺に非があるみたいな言い方だし。


「リッカはなんて言ったんだ?」

「私か? 私はただ友達がいないと」

「それだけじゃないでしょ? 女子から嫌がらせされてるって言ってたじゃん」

「ああ、そうだな。だがそれは貴方達には関係のない話だろう?」

「あーなんかエルが友達になった理由がよーくわかった。エルの好きそうなタイプだ」


「それさっきフレッドにも言われたよ。俺の好きそうなタイプってなんだよ?」

「なんだろう、口で説明できないけどそんな感じ。ねえ先輩?」

「そうね。そのタイプで言うと私が当てはまるかしら。ひょっとしたらサーシャも」

「困ってる人を見たら助けないと気が済まない病です!」


「それそれ。さっき私達はそういうの嫌いだから仲良くしようね、って話してたの。エルもいじめられちゃってるの知ってたんでしょ?」

「いや、今さっきフレッドから聞いたばっかり」

「案外ただ可愛いから友達になっただけだったりして」


 だからイオナ先輩……どうしてそう油を撒くような発言ばかりするんだ。今いい感じで話がまとまりそうだったのに。


「いずれにせよ、だ。リッカちゃんも俺らの仲間入りってこったろ? 俺らは問題児揃いだぜー?」

「そうなのか?」

「いや、別に問題児ではないだろ。なあフレッド?」

「そうだな。入学早々上級生相手に喧嘩ふっかけるアホだろー可愛い子見つけたら誰彼構わず手を出すヤツだろー後は妹が大好き過ぎるヤツがいるな」

「おい待て、それぜんぶ俺のこと言ってるだろ? しかも最後に至ってはまったく関係ないし」


「おや自覚があるようで。なんて冗談はここまでにしとくとして、実際問題俺らはかなり目立ってるぞ。上級生倒すだけでも目立つのにワイルドバンチ相手にしちまったし、なんでかお前はそこのリーダー様のお気に入りだ。それ以外にも希少な召喚魔法の使い手にピーキーとはいえ実績上げてる技工科の学生、頭も顔も身体もいい女がよりどりみどり。他所から見たら順風満帆目の上のたんこぶみてえな集まりだ」


 言葉に出して並べられるとたしかにそうそうたるメンバーだ。おまけに貴族が二人もいる。家柄まで完璧だ。こうして考えると俺の交友関係は異常だ。


「普通に考えたら嫌がらせの一つや二つされてもおかしくないレベルだな」

「それがなーんでされないか。理由は単純だ。ビビってるから。そういうことするような連中は基本自分より下のヤツにしかやらない。幸いにして俺らは公衆の面前でバトルする機会が多かった。だから、そういうのを見聞きした連中は手を出したくても出せないわけ」


「ってことは私達と仲良くしてたらリッカちゃんへの嫌がらせもなくなるかな?」

「どうだろうな。リッカちゃん、やたらと女を侍らせてる男に告白された記憶ない?」

「ぜんぜん記憶にないな。話したこともないような男に告白されても記憶に残らない」

「清々しいまでに興味ないのな。こりゃモテ男君が執着するのもわかるわ」


「モテ男君?」

「そ。モテ男ことジョージ・プランナー。告白されたのは間違いないぜえ」

「うーん……やはり思い出せないな。有名人なのか?」

「有名っちゃ有名だな。一部からは人気だが大多数からは嫌われてる。貴族の七光君だ」

「ふうん。それがどうしたんだ?」


「簡単に言うと、そいつを振っちまったのが今リッカちゃんがいじめられてる要因の大多数を占めてるっちゅーわけ。で、俺らはさっきなんとかしてそいつにお灸をすえてやろうと話してたわけなんだが、リッカちゃん今生徒会忙しいでしょ」

「そうだな。あまり詳しいことは話せないが立て込んでいるのは事実だ」


「だよな。だからどうっすかねって話なんだが、生徒会の方は目処が立たない状況なのか?」

「わからん。まったく目処が立たない。そもそも全貌が見えていないんだ」

「それ、俺達が手伝うってわけにはいかないのか?」


 俺の問いにリッカは考える素振りを見せたが、結果的に俺の提案は受け入れなかった。


「一応、制度として外部メンバーに手伝いを申し出ることはできるが、今はまだその段階ではないと思う。だから、申請しても却下されると思う」

「そっか……まいったな。今俺らができることってなんなんだろう」

「私達がガードマンになるとか? 誰か一緒にいれば表立ってやる人は少ないだろうし」


「あ、それいいですねえ。リッカさんと一緒にいられるし一石二鳥です!」

「でも、貴方方にも迷惑が……」

「友達なんだから気にしない! 当たり前のことだよ」

「ふふ、なんだかエルが二人いるみたいだな」

「リッカちゃんもその内にエルに影響されて同じようなことを言い出すかもね」

「なるといいな。っと、すまない、生徒会からだ」


 リッカは少し離れた位置に移動してプレートで会話している。やはり忙しいのだろう。そんなリッカの姿を横目に見ながら俺はこう言った。


「すまないがしばらく女性陣には負担をかけることになると思う。俺達も可能な限り目を配るけど、やっぱり男女の差は如何ともし難い」

「ずーっと一緒にいるわけにもいかんからな。ストーカーになっちまう」

「構わないわ。どの道私も友達が多いわけではないから今と変わらないでしょうし」

「私もちゃんとお友達と呼べるのはここにいる人達くらいです」

「私はそれで離れていくような人と友達な覚えはないからノーダメージ!」

「あたしは機巧人形がお友達だもんねー」


 イオナ先輩……あなたはそれでいいのか……。まあなんにせよだ。


「そう言ってもらって安心したよ」

「うーんこれこそ友情って感じだよな。俺っち達は正しく青春してるぜ」

「だな。俺達は俺達らしく。このままでいこう」


 その後、通話を終えたリッカが戻ってきて生徒会に戻る旨を伝えた。リッカを見送った俺達は、いつものようにしばしショコラでの一時を楽しんだ後解散した。


   ○


 週末、俺とフレッドはアルバイトに精を出していた。現場には見慣れない顔がたくさんいた。なんでも、ここ最近学内の施設がとんでもない勢いで破損しているらしい。


 人手が足りないほど忙しいなんて状況は、単位争奪戦が活発化する期末試験前くらいのものらしい。現場長も不思議な顔をしながら修復指示を出していた。


「いくら時給がいいって言ってもここまで忙しいとサボりたくなっちまうな」

 モルタルをかき混ぜながらフレッドが言った。その額には大粒の汗が流れており、日差しの強い今日の気温の高さを物語っていた。


「たしかに。これ何件目の現場だ? もう思い出せないぞ」

「ここで6件目だ。俺ら以外のチームもいるはずだから実際はもっと破損箇所が多いはずだ。おまけに壊し方がどーも妙なんだよな」

「妙って?」

「なんつーか戦った結果壊れたってより、最初から壊すのを目的としてやったみたいな。モルタル混ぜ終わったぞ」

「お疲れさん。レンガ並べるとするか」


 出来上がったモルタルをレンガに塗って破損箇所に並べていく。ある程度量や位置が適当でも、後でまとめてかける修復魔法が調節してくれるから楽だ。昔はこういうのをミリ単位で人間がやっていたのだから、本当に魔法は便利だ。


「だけど、壊すのが目的って言ってもなんでそんなことする必要があるんだ?」

「だから妙なんだよ。普通に考えりゃ悪質な行為だからな、学園に単位没収されても文句は言えない。目的がわからん」

「考えてもしょうがないさ。特別ボーナスはずんでくれるらしいし、ちゃっちゃと終わらせようぜ」

「なにそれ初耳なんだが」


「さっき現場長がお茶くれた時に話してさ。ちなみにまだまだ現場があるらしいぞ」

「うげー。いくらボーナスありでも勘弁」

「まあそう言うなよ。そんなに大変なことでもないわけだし」

「そりゃそうだけどよ。いくら形状記憶があるっても材料は俺らが運ぶんだ。こりゃ明日は筋肉痛間違いなしだな」


 形状記憶、本当にありがたい機能だ。詳しいことはよくわからないけど、学園の地下に大規模な特殊紋章があって、その紋章に学園の建物の設計図が刻み込まれているらしい。だから、今みたいに大まかにレンガを並べていっても、修復魔法をかければ地下の紋章が反応して自動的に建物を元の形に修正するらしい。


 とはいえ、それも万能ではない。破損した箇所にそれ相応の材料を接着して、その上から魔法をかけることで地下の紋章にインストールされた魔法が連鎖的に反応する仕組みらしい。だから、材料を運んだりといった作業は人力なのだ。


 この魔法のすごいところは、修復するだけならば特別技術がいらないという点だ。だから俺達みたいな学生でも工事員と変わらない働きができる。


「俺なんて病み上がりだぞ。筋肉痛なんてすぐ治るさ」

「お前みたいな鉄人と一緒にすんじゃねえ。俺ちゃんは温室育ちなんだよ」

「嘘つけ。お前だってバリバリの運動系だろ。お前が勉強してるところなんて見たことがない」

「バッカ。俺は睡眠学習派なんだよ。寝てれば勝手に脳がお勉強してくれてんだよ」

「はいはい。喋ってないで手を動かせ、手を」


 そうして何個もレンガを並べ終えた俺達は、最後の仕上げに魔法をかけた。すると、ガタガタに並べられていたはずのレンガがひとりでに整列し始め、最終的には不揃いだったはずの色も元に戻っていった。


「いつ見ても不思議な光景だ。まるで建物自体が生きてるみたいだ」

「ずいぶん詩的な表現すんじゃねーか。もうリッカちゃんに影響され始めてんか」


 最近、俺は暇を見つけてリッカに勉強を教えてもらっていた。やはりロードオブカナンに出場するには学力も身につけなければいけないと考えたからだ。


 リッカは読書が趣味らしく、言葉の端々に知性を感じさせた。ひょっとすると、一緒に過ごす内に影響されてきているのかもしれない。


「悪いことではないさ。文武両道。やっぱり、格好いいだろ?」

「お前その内ほんとに鉄人になんじゃねーか? 生徒会長様に取って代わる日も近いな」

「あの人も勉強もできるのか」

「学年トップ5の常連だよ。あの人の中身は機械なんじゃねーかって噂だ」


 思い出すのは涼しい顔して本気のロベッタの攻撃を流していた光景。機械と言われてもまあ、たしかに納得できないことはない。


「ゾッとしない話だ」

「おーい次の現場行くぞー!」

 現場長の声がかかった。

「やれやれ、いつになったら終わることやら」


 すでに辟易しているフレッドを伴って、現場長の元へと向かう俺達だった。

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