第66話

「けいくん。何処行ったんだろ……」


 私はけいくんと離れ離れになった後、近くにベンチを見つけて、そこで休んでいた。


「もう! こんな可愛い彼女を見失うなんて酷い彼氏だなー。全く」


 不安な気持ちを紛らわすためにそんな事を呟いた。まだ周りは騒がしいし、灯りも多い。それでももう時間は八時を回っている。時間的にも遅いから不安な気持ちにもなってしまう。


「まぁ、けいくんのことだしすぐに見つけ出してくれるよ。いつも困ってたら助けに来てくれたし」


 自分に言い聞かせるように呟いて、ベンチの上で体操座りする体制でけいくんのことを待った。


 それからすごく時間が経ったような気がした。


「けいくんまだ来ないのー。遅いなー」


 思わず愚痴をこぼしてしまった。


 (いや、待って。こんなに文句言ってたらめんどくさい女でけいくんに嫌われるかも)


 そう思った私は一度ふぅー、と息を吐いて落ち着くようにした。その後、どれくらい時間を立ったのかを確認した。


「えっ! まだ十分も経ってないじゃん!」


 私は驚きながらもス・マ・ホ・を鞄の中に戻そうとした時にあることに気づいた。


「スマホあるなら連絡すれば良いじゃん! えっ、こんな事も気づかなかったの」


 思わず自分の馬鹿さに呆れてしまう。でも、これで場所を教えたらすぐにけいくんもすぐに来れるよね。そう思った私は通話ボタンを押した。


 (けいくんも気づいてないのかな。それならお互い馬鹿すぎるよね)


 私はスマホを耳に当てながらそんな事を考えていた。



***



「誰だよ。こんな時に」


 結衣を探している時に誰からか分からないが着信音が鳴った。今急いで時間がないっていうのに。結衣を探しながらもスマホを取って通話に出た。


「もしもし?」

『もしもし? けいくん?』

「あっ! 結衣か!」

『そうだよー。こんな簡単な事に全く気づかなかったよ』

「……確かに」


 電話をすればすぐに場所とかも分かるのにそんな事も思いつかないなんて馬鹿すぎるだろ。そんな風に自分の頭の無さを考えながら電話を続けた。


「結衣は今何処にいる?」

『えっとね。河川敷のベンチに座ってる。場所は〇〇橋の近く』

「ああ。あそこか。なら結構近いしすぐいけると思うぞ」

『良かったー』


 その声と共に安心した様に息を吐く音が聞こえた。こんな夜に一人っきりじゃ怖いもんな。そりゃあ当たり前か。


「それじゃあすぐに向かうから。またすぐに」

『うん! バイバイ!』


 そのやりとりを最後に通話を切った。

 急げば十分かからない距離だし、すぐに行けるだろう。人も少ないし。

 そのまま河川敷沿いの道路に従うように、結衣のいる所へと向かった。

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