第58話
「この学校ってレベルがまだ高い方でしょ?」
有紗ちゃんは最初私にそう訊いてきた。
「うんそうだね。私も遠いところの学校に行くなら多少頭のいい高校に行けって言われてここにきたしね」
懐かしいな。そう思いながら有紗ちゃんの問いに答えた。
「よね。で、私はここの学校には推薦で決まったの。その事は聡太には隠していたの」
「どうして?」
「だって、私がここに行くって言ったら、聡太は付いてきそうだったし。それで聡太が受験失敗するのはみたくなかったから」
「なるほどね」
中学の頃の聡太くんはそんなに頭が悪かったのか。今は普通にこの学校でも付いていけてるし、ちょっと意外だった。
「でも聡太は、何処からかは分からないけどその情報を手に入れちゃったの」
「あー……」
「思っている通りだけど進路変更したの」
「やっぱり」
まぁ進路変更してなきゃこの学校には居ないもんね。
「まぁそれでも私が聡太の進路に文句を言うわけにもいかないから、何となくで受け流してたの。それが受験の2、3週間前くらいかな」
やっぱり、この時点で結構受験に近い日数だった。
でもその日からちゃんとやってれば、そんなに詰め込まなくても何とかなってた気がするんだけどな。
そう思った私は有紗ちゃんに訊いてみた。
「そこから勉強してたらもっと余裕があったんじゃないの?」
「そこで聡太のさっき言ったことが出てくるのよ」
「あー。監視されないと出来ないってやつ?」
「そう。それで10日前に一度聡太の家に行ったのよ。勉強で疲れてるだろうと思って」
「何にもしてなかったの?」
「もっとひどいの。普通にゲームをしてたんだから」
でも聡太くんのやってる事は何となくわかる気がする。現実逃避ってやつなんだろうけど。
「そこから私がもうスパルタでビシバシってね。それで受験合格したのよね。それでも合格点ギリギリだったんだけどね」
「そ、そうなんだ……」
確かにしんどかったかもしれないけど、10日で中学の範囲を全部覚えれる聡太くんの凄さと、有紗ちゃんの教え方が上手かったおかげなんだろうなと思った。
「でも、5時間しか寝てなかったって言ってたけど、どうやって教えてたの? その時はお父さんに認めてもらってないんでしょ?」
私はそこに疑問を持った。電話でも制限があるし。
「それはね。普通に聡太の家に泊まったのよね。推薦でもう受かってたから、外泊を認めてくれたのよね。それに加えて、友達に勉強を教えてくるって言ったら、快く了承してくれたの」
「へー。有紗ちゃんのお父さんはもっと厳しいのかと思ってた」
「まぁ厳しいと思うけど、他人を助けるためだったから良かったんじゃないかな。正義感は強い人だし」
「へー。そうなんだ」
確かに正義感の強い親だったら、自分の子供が他人を助けるなんて言ったら嬉しいだろうな。
それで受験の話は終わった。
「まぁ有紗ちゃんお疲れ様」
私は頑張っていた有紗ちゃんを労った。
「結衣も疲れたでしょ。圭人くんに勉強教えてたんでしょ」
「まぁ、それはそうだけど」
でもその分、国語とかを教えてもらったりしたのでお互い様だ。
「でも入試は分かるんだけど何で今回そんなに頑張ったの?」
別に今回のテストだけで留年が決まるわけでもないのに。あるとしたら追試くらいなのかな。
「えっと……。恥ずかしいから誰にも言わないでよ」
「うん。分かってる」
「追試してたら遊ぶ時間が減るっていうのと、一緒にいる口実をつくるため。……いや、嘘よ嘘。ただ単に心配だっただけよ」
言ってて恥ずかしくなったのか、有紗ちゃんは最後に誤魔化しの言葉を入れた。
「ふうーん」
その姿が可愛いと思って思わず口元が綻んでしまった。
「何よー」
「ううん。何でもないよー」
「もう! やっぱり言うんじゃなかった。こうなったらお仕置きしないとね」
有紗ちゃんはそう言って私の頭をグリグリしてきた。
「痛いよー。有紗ちゃん」
「大丈夫よー」
私の悲鳴に対して有紗ちゃんはほぼ棒読みのような言葉で返してきた。
テストが終わった後は本当に気が抜けてしまうけど、それもいいなと思えるほど楽しい会話だった。
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