第49話

 それから俺は他愛のない会話をしてから、帰ることにした。

 やっと、有紗とお父さんは仲直り出来たんだ。いろいろ話したいこともあるだろう、そう思ったから、早めに家を出たのだ。


(やっと、やっと認めてもらえた……)


 家を出てからずっとそんなことを考えていた。夢みたいで何回も自分の頬をつねってみたけど夢じゃ無かった。

 こんなに嬉しいことがあって明日死ぬんじゃないかと、思うくらい心が晴れ晴れとしていた。


 この気持ちをいち早くに圭人達に伝えたい。でも、今からは迷惑だ、そう思ってグッと堪えた。

 今日一日はそんな葛藤を繰り返していた。


 次の日。月曜日で学校の日だ。


「おはよう。圭人」

「ああ、おはよう」


 圭人にはまだ結果を伝えていない。でも俺の表情から、察したみたいだった。安堵したようにホッと息をついていた。

 それでもちゃんと報告はした方がいいだろう。世話になったしな。


「成功したよ」

「だろうと思った。良かったな」

「ああ、今回は色々ありがとうな」


 俺は圭人にそうお礼を言った。すると圭人はフッと笑って


「聡太。今のお前いい笑顔だよ」


 と、俺の肩を叩いた。


「そうか?」


 圭人にはいつも通りに接したつもりだったので、圭人の言葉に疑問を持った。


「ああ。初めて、本当の笑顔を見た気がするよ」


 俺の疑問に対して圭人はそう答えた。

 そうか。そういうことか。やっと抱えていた問題が解決して、何も気にすることはなくなったんだ。

 やっと、終わったんだな。長い長い戦いが。

 そう思っていると


「おーい。けいくーん。聡太くーん」


 と、結衣さんが話しかけてきた。その隣には有紗もいた。


「やったね。有紗ちゃん。聡太くん!」

「もう。それ何回目よ」

「四人のところでいうのは初めてだからいいの」


 有紗から事情を聞いたのか、結衣さんは祝福の言葉をかけてくれた。


「結衣さんもありがとな」

「別に何もしてないよ。ね。けいくん」

「ああ。そうだな。頑張ったのは聡太と有紗さんの二人なんだから」 

 

 圭人と結衣さんは何もしてないって言うけど、どれだけ二人に助けられたか、分かってないな。そう思った。


「それじゃあ昨日の聡太の話でもしましょうか。二人も気になるでしょ」


 有紗はいきなりそんなことを言い出した。


「うん。気になる」

「確かに、聡太がどんな事をしたのか興味あるな」


 ちょっと待った。このこと話したら、絶対にいじられる気しかしないんだが。


「ちょっと待てって」

「いいじゃない。かっこよかったわよ。あの時の聡太」

「そういう問題じゃないから!」

 

 そんな感じで次の日からは至って普通の日常が、再び始まった。

 昨日の出来事は、何が起きても忘れないだろう。

 俺と有紗だけじゃ叶えられなかっただろう夢。圭人や結衣さんの支えによって、叶えられた一つの夢。

 それを大切にしていきたいな。そんなことを思った。



 

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