第27話

「それにしても、あの命令もし私と圭人くんだったらどうするつもりだったの?」


 落ち着いた有紗さんがそう聞いた。

 確かにもしそうなったら誰も得しない世界が完成してしまう。


「なんとなく大丈夫だと思ったから?」

「何それ」

「だって私とけいくんは愛し合ってるし、有紗ちゃんと聡太くんも愛し合ってるでしょ」

「それは」

「そうなんだけど」

「恥ずかしい」

「そんな息ピッタリに言わなくてもいいじゃん!」


 こんな会話もしながら王様ゲームはまだ続いていた。


「王様だーれだ」

「あ、私ね。みてなさい。やり返してやるんだから」

「ちょっと、こわいよ……」


 王様に決まった有紗さんの目が殺気に満ちている。

 そして有紗さんは少し考えて、口を開いた。


「じゃあ2番が3番の額にキス」

「そ、それはやりすぎだろ」

「いいじゃん。唇じゃないんだし。で、誰なの?」

「お、俺は2番だ」


 俺が2番だった。もし聡太が3番なら……、考えるだけでも恐ろしい。


「わ、私……3番」


 そう言って結衣は手をあげた。


「そう? なら大丈夫ね。行け行けよ。圭人くん」

「本当にやるのか? お前らがみてる前で」

「当たり前だ。俺らも恥ずかしい目にあったんだし。お前らもやれねえとな」

「それに、結衣ちゃんも準備万端だよ」


 そう言って有紗さんは結衣を指差した。

 その結衣は目を閉じて本当に準備万端だった。


「なんでそんな対応力がいいんだよ!」

「だ、だって王様の命令だし、早くやらないと。私も恥ずかしいんだからね」

「わ、分かったよ」


 結衣にそう言われて引けなくなったため、覚悟を決めた。


「じゃあ、いくぞ」

「う、うん」


 俺は結衣の前髪を上げて、額に唇を近づけた。

 もう結衣はモジモジ恥ずかしながらも、受け入れるように離れようとはしない。

 完璧に唇と額がくっついた途端に一瞬結衣がピクリと体を震わせたが、安心したように両手を俺の背中に回してきた。

 俺はそれに応えるようにゆいの背中に手を回した。

 どれくらい時間が経ったか分からないけど、俺が結衣から離れると残念な顔をしながらも、離れた。


「そ、そういえばあいつらがいるの忘れてた」

「わ、私もだよ!」


 二人に見られたらどういじられるか、そんなことを考えながら、俺は二人が居た方を見た。


「あ、あれ?」

「誰も居ない。——あここに何かある」


 それは結衣へのプレゼントと


『ちょっとこれ以上いたら邪魔になりそうだから帰りまーす。二人で楽しんでね。

 聡太と有紗より』


 こんなことが書いてあった置き手紙があった。


「あいつらー!」

「はぁ。もう怒っても仕方ないよ」

「だな」


 こうして俺たちは二人で誕生日会を続けることになった。



***



「ねえ。これどうする?」

「どうするって言われても……」


 聡太と有紗は困っていた。圭人がキスをしている間ずっと。


「こんなに長いことやれって言ってないんだけど」

「もう3分くらいは経つんじゃねえの?」

「帰る?」

「それが良いかもな。後は2人で楽しめって手紙でも置いて」

「そうね」


 それから置き手紙を書いて、プレゼントを置いて帰る準備をしてとしている間、気にすることなくずっと額にキスを続けていた圭人と結衣だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る