第3話
「じゃあ、お腹もいっぱいになったし、そろそろ説明してもらおうかな」
「説明する前に、お互いの親に聞いてみないか? 絶対知ってるぞ」
「確かに……。それが一番かも」
「じゃあ、お互い電話してみるか」
「分かった。じゃあその後にまたここで話そ」
「おっけー」
そして電話が終わった。
「…………」
「…………」
俺たちは無言でさっきの場所に戻ってきた。
「……どうする? 同じことを聞いたみたいだし」
先に声を発したのは俺だった。
「まぁそうだろうね。同居の話でしょ」
「ああ。通りで広いと思ったよ」
「私も。一人だったらこんな高そうな部屋借りるわけないもん」
「だよなー」
そう。このマンションの部屋は広かった。一人暮らしでは十分すぎる程に。
「取り敢えず今日はもう寝ないか? いきなり過ぎて頭が追いついていない」
「私も同じこと思ってた。部屋も結構あるみたいだし」
「じゃあお風呂入って寝るか」
「どっちが先に入る? お風呂」
「流石に譲るよ」
「じゃあありがたく一番風呂頂くね」
「どうぞどうぞ」
そう言って結衣はお風呂に向かった。
「さてこれからどうするかな」
結衣がお風呂に向かった後、俺は一人で今日のことを整理していた。
「結衣と同居することになるなんてな」
同居自体は何回もあった。向こうの親はシングルマザーだから、よくうちに遊びにきていた。
その時に泊まったりもしていた。でもそれは、妹がいたり、母さんがいたりした時だ。
二人きりというのは体験した事がない。
二人きりだからといって何かが起きるわけでもないのに、どうして意識してしまうんだろう。
そんな事をずっと考えていると結衣がお風呂から出てきた。
「出たから、入っても良いよー」
「おう、分かった」
結衣はパジャマ姿だ。中学時代から愛用しているくまの柄が入ったものだ。
中学の時も見た事がある姿なのに、この状況のせいか、ドキドキしてしまう。
それに気づいたのか、結衣は近寄ってくる。
「どうしたの? 風邪? 顔が赤いよ」
「い、いや何でもない。お風呂入ってくるよ」
「そう……。なら良いんだけど」
俺は逃げる様にお風呂場に向かった。
「はぁー。一人は落ち着くな」
湯船に浸かって、俺はまた考え事をしていた。
もちろん結衣のことだ。
何でこんなに意識するのかは分からない。
着替えを見た時はそんな事無かったのにな。
着替えか……。育ってたなぁいろんな所が。
やばい。これ以上考えるのはダメだ。アレがやばい。
これから一緒に生活するんだ。しっかりしないと。俺は頬を叩いてお風呂から出た。
「おーい、出た——」
俺はリビングに戻って来て、結衣に言おうとした。しかし結衣が何か、呟いていた。
「なんか、けいくん素っ気なかったな。やっぱり私、嫌われてるのかな。あの時のこともあったし……。嫌われたくないな……」
耳を澄まして聞いてみれば、そんな事が聞こえた。
その言葉を聞いて勝手に意識してるのがバカみたいに思えてきた。
今までも、同じ屋根の下で泊まった事はあったんだし他に人がいるか、いないかの違いだけだ。(それが大きいのかも知れないけど)
でも結衣がそれで傷つくんだったら今まで通り接しないとダメだよな。
俺は改めて頬を叩いて、結衣のところに行った。
「おーい。上がったぞー」
「あ、けいくんお帰り……」
「お帰りってなんだよ。お風呂から戻ってきただけだぞ」
「まぁ、そうなんだけどね」
「やっぱりどこか抜けてるよな。結衣って」
「抜けてないよー」
と言って顔を膨らませた。
まぁ変に気にするより、こういう会話をしてる方が楽しいな。
まだ少し気になるけど慣れていけば良いだけだよな。
「(良かった。私の気のせいだったみたい)」
「えっ、何か言ったか」
「何でもないよー」
そうして同居生活の初日が何とか終わった。
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