太陽の光は天才を強くする

かみむら。

始まり 〜天才が生まれた場所〜

『天才』

 この言葉は一部の人間にしか使わない言葉だ。誰もがこの言葉を使われる人間に憧れ、なりたいと思う。だが、私はこの言葉が世界で1番嫌いだ。なんでか?

『天才』と言う言葉だけで誰も私の努力を認めないからだ。生まれつきあいつは才能があるんだ。凡人はあいつに勝てるわけがない。と最初から私がどんな努力をしてるか見ようともしないのだ。


 足元にもう1人の自分が映し出され、それを見ながら歩いていると「西野!」と声が聞こえたと同時に背中に強い衝撃を受けた。痛いというより暑いという感覚に近いものを覚えるほど強く叩かれたのだ。「いてーな。山本。お前ゴリラ並みの力あるんだから加減しろよ。骨折れるかと思ったわ。」と西野はイラつきながら山本に言ったのだ。「わりぃーな!てか、オリンピック日本代表に招集されたらしいな!流石天才!」と山本はいつもみたいなふざけた笑顔を浮かべながら話した。

西野優馬。「20年に1人の天才」「神童」などと呼ばれるほどの逸材で2020年の夏に行われる夏季オリンピックのサッカー日本代表に選ばれていたのだ。だか、西野には納得のいかないことが数多くあったのだ。

「は?うっせ。天才じゃねぇーよ。山本お前、俺が1番嫌いな言葉知っててそれを俺にいうのか?ムカつくんだよ。」口を尖らせながら言った。山本裕樹は西野の親友で小学生の時から西野と同じチームで高校になった今も同じ高校のサッカー部に所属している。「あーわかってるよ?だけど、お前18歳の高校生がオリンピックの日本代表に選ばれるってめちゃくちゃすげぇーことなんだぞ?天才としか思えないだろ?」と自慢気に話す山本。話しているとブーブーとポケットの中のスマートフォンが鳴った。「はい。西野です。」「もしもし、青木だ。今少しいいか?」と野太い声で話す電話の向こうの人。日本代表監督の青木浩だ。山本とそこで別れた西野。沈む夕日を見ながら電話越しに青木と話し出した。「はい。大丈夫です。なんでしょうか」と西野が話すと、青木が暗い雰囲気で話し出した。「悪いな。お前が前に言っていた話なんだがどうになかならないか?こちらとしてもお前が代表に来てくれないと辛いんだよ。頼む。」と聞き慣れた言葉を言ってきた。「すみません。今回は本当に厳しいんです。本当にすみません。」と西野は話した。


 西野は小学1年生の時からサッカーを始めた。始めた当初から才能はずば抜けていた。中学生に上がる頃には有名なクラブチームが西野を取り合うほどだった。だが、全て断り地元の中学校に入学した。やはり、そこでも彼の才能は周りとは比べものにならないものだった。高校は全国の強豪校が彼にオファーをしたがそれも断り続け近くの高校に入学した。そこまでして地元に残るのには大きな理由があった。

「ただいまー」「おかえり!兄貴!腹減ったよ!」と8つ歳が離れた弟の光貴が笑顔で待っていた。「ごめんごめん。今から飯作るから!そのかわり光貴は俺の洗濯物洗ってくれな!」と西野は笑顔で話した。

線香の匂いが広がる部屋。「ただいま。父さん」仏壇に手を合わせ晩御飯の支度を始めた。

西野が9歳の時、父がこの世を去ったのだ。死因は交通事故だった。母は身体が弱く内職をし、家計をやりくりしてくれた。

「ごめんね。優馬。ご飯とか任せちゃって。」と母がいつも通りの元気のない声で謝ってきた。「大丈夫だよ。母さん。俺料理好きだから。」と笑顔で話した。

西野が地元を離れなかった理由は家族を守りたかった為だ。


 「ばか!何で断ったらしたの。」母の怒鳴り声が部屋中に響き渡った。「そんなの俺の勝手だろ。親父が死んだ時から俺が家族を守るって決めたんだよ。」西野は母に今日監督に代表を辞退したことを話したのだ。母は自分たち家族のせいで優馬を苦しめて優馬の夢まで奪っているのが嫌だったのだ。「お母さんが身体が弱いから?お父さんがいないから?お金がないから?」涙を浮かべながら強い口調で西野に怒鳴った。西野は母の迫力に首を横に振ることしかできなかった。「ごめんね。こんなお母さんで。優馬の夢まで奪っちゃって。はい。これ。」西野の前に1枚の紙が出てきた。"代表合宿参加届"

「これ優馬の部屋から出てきたよ。行きたいんでしょ?なら、行きなよ?お母さんの夢は優馬が夢叶えることなの!今度はお母さんが家族を守るから!優馬世界一のサッカー選手になっておいで!」母の優しく厳しい言葉に胸が締め付けられた。それと共に西野の体がすっと軽くなったと感じた。


母さんごめん。俺母さんの夢まで奪ってしまおうとしてたんだね。俺"世界一のサッカー選手"に絶対なるから。ありがとう。母さん。


 

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