最終話ですわ!



『君たちには若き王とその妻の役割を頼もうと思っていた。まあ、依頼の受注や大型イベント以外出番はないんだけど……それでもやはりいるといないでは『ディスティニー・カルマ・オンライン』のプレイヤーのモチベが変わる』

「うんうん! それはもう! っつーか! 私まだ始めたばっかりなのにサービス終了とか普通に泣けるし!」


 そうですわね、時間をかけて育てたアバターがなくなるかと思って腰を抜かすほど安心なさるエイラン様もさる事ながら、最近始めたばかりのエルミーさんにとってもかなり衝撃の事実です。

 わたくしたちも衝撃的といえば衝撃的でしたけれど、サービス終了はゲームである以上避けようのない事。

 むしろデータを転移させて、次のゲームにも活躍の場を与えて頂けるなんて光栄ですし……。


「では、わたくしとハイル様は……」

「離れなくても、良いんですね!?」

『まぁね。でも多分暇だと思うよ』

「それなら、冒険に出掛けたりしても良いですか!?」

「ハイル様!?」


 それはわがままを言いすぎなのではないでしょうか!?

 確かにわたくしも冒険には出掛けたいですが……わたくしたちはNPCにすぎませんし……。

 なにより国王と王妃という立場ならば仕事があるのでは?

 ってお待ちになって?


「国王と王妃!?」

『今?』

「あ〜〜〜!? お待ちになってくださいませ、お待ちになってくださいませ! それでは、わたくしとハイル様は次のゲームではふふふふふふふふうふうふうっ」

「! ……ああ! 俺たちはずっと一緒だ……! ああ! キャリー愛してる!」

「ひゃあぁっ!」


 腰を!

 抱き上げられて……持ち上げられました!

 ひぇ! 高い! ハイル様こんなに力持ちでしたの!?

 そ、そのままくるくると回ってえぇ!?


『……。あーっと冒険? 冒険もまあいいよ。好きに生活するといい』

「良いんですか!?」

「よろしいんですの!?」

『まあ、そんなすぐじゃないし、具体的な事は今後話そう。『個』が現れ、確立したというのなら君たちには『人権』が出来たって事だろう。いいよ、好きに生活するといい。ただ、お仕事はちゃんとしてね?』

「「! ……はい!」」


 ハイル様がわたくしを床に下ろして、そしてまた抱き締めてくださいます。

 ハイル様……わたくしハイル様の妻になれますのね……。

 設定としての婚約者ではなく、わたくしは今後貴方様の妻に……!

 ずっとお側にいられますのね?

 嬉しい……嬉しいです!


「……それじゃあ、ドレスとタキシードの色は変えた方が良いかな」

「はい! そうですわね!」


 モニターを操作する。

 簡単な色の変更ですわ。

 わたくしは淡い緑、そして金色糸で刺繍されたドレス。

 ハイル様の髪と瞳の色。

 ハイル様はダークブラウン……わたくしの髪と瞳の色です。


「……うん、うん! こっちの方が断然イイ!」

「うん。卒業と、二人の結婚式かな?」

「ま、まあ! エイラン様ったら!」

「それでも良いかもしれないな。個人的には国を挙げてやりたいけれど」

「え、えぇ……」


 そ、それは、それは、わたくしも、ちょっとだけ……い、いえ、そんなわがまま……。


「……わたくしは、今が幸せなのでしなくても良いぐらいですわ」

「そんな事では困る。……未来があるなら、俺はその未来でも君を幸せにし続けたいのだから」

「……ハイル様……っ」

『まあ、詳細に関しては後日にしよう。せっかくのパーティーのようだからね。じゃあ、みんな卒業おめでとー。プレイヤー諸君は今の情報まだ漏洩しないでね。したら請求するから色々』

「「色々ってなに!?」」







 わたくしは……、わたくしはキャロライン・エレメアン。

 愛する方と結ばれて、新天地にて頑張ります。

 ええ、この方のお側なら、わたくしはどんな事でも頑張れますとも!

 生まれ育った故郷がサービス終了でなくなってしまったのは悲しいですが……きっと新たな地でも友人たちに囲まれて、愛する人と共に生きていきますわ。




「キャリーたーーーん!」

「まあ、エルミーさん! FOEOを始めたのですか!」

「うん! キャリーたんたちに会いたかったからコンバートした!」


 それにしては相変わらず少女のアバターをご利用なんですわね。

 ……さすが、ネカマのプロは当然のように少女アバターで始めるのですわね!


「つーかキャリーたんこそその格好なに? パン屋の女将にしか見えないんだけど」

「パン屋の女将ですわ! FOEOにお引越ししてきてからスキルツリーの解放も許されましたのでわたくしとハイル様は国王兼冒険者、王妃兼パン屋さんなのです!」

「どういう事なの……!?」

「ぶっちゃけ大型イベントの時以外わたくしとハイル様は王と王妃としての仕事がありませんので普通のNPCとして生活しておりますわ!」

「えええ……!」


 というわけで焼き上がったパンをカゴに並べます。

 うーん、良い香りです。

 ハイル様、今日のお弁当喜んでくれましたかしら?

 今日はパンにハムと畑から採れたてのレタス、牛さんから頂いて作ったばかりのチーズとバターを挟みましたの。

 お気に召すと良いのですが……。


「なんかめっちゃ生き生きしてるね〜」

「はい、庶民の暮らしは楽しいですわ!」

「…………」

「?」


 そういえば、エルミーさんは今日会ってから一度も「殴って」「蹴って」「罵って」等の発言をしておりませんわね?

 嗜好が変わられたのでしょうか?

 それはそれで多分良い事ですわね?


「うん! なら良かった!」

「え?」

「ねえ、それならもしかしてキャリーたんもパーティー組めたりするの? 今度一緒に冒険行こうよ!」

「ええ、構いませんわよ。あ、でしたらハイル様とエイラン様も誘って四人で参りましょう? わたくし治癒やサポート系の魔法をたくさん覚えましたの」

「わあ! イイネイイネ! みんなで行こーう!」



 了

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