第37話ですわ!
「貴方達のような方々、現実の女性に相手にされなくて当然ですわ!」
ダメ。
震えてしまう。
悟られてはいけません。
わたくしはインヴァー公爵家の息女。
この国で最も偉いふりをしなければならない娘です。
それがわたくしの…………キャロライン・インヴァーという『悪役令嬢』としての、矜持!
いついかなる時も気高く振る舞う。
本当は姑息で狡くて弱くて、一人ではなんにもできないただの小娘に過ぎなくとも……。
「大の男が四人も集まってやる事が小娘一人に集団で襲いかかる事だなんて、なんてみっともないのでしょうか! そんな事でしか自分の支配欲を満たせないなんて全くもって器が知れますわね! 貴方方のIDはもう通報しました。すぐにゲームマスターから貴方方のアカウント停止が実行される事でしょう! 貴方方のような方々は出禁ですわ!」
実際にはIDの停止は早くて二時間くらいかかると思いますけれど。
その前に警備兵が来るはずですわ。
ふん、この暗がりでも分かるぐらいに顔を真っ赤にして……図星ですわね!
「このアマ……マジブッ殺す!」
「っ」
一人が斧を構えてました。
他の三人も、剣やナイフ、槌と武器を構えます。
魔法で目眩しをしてその隙に——!
「キャリーたん!」
「えっ」
「ええええい!」
ドガッ、と鈍い音が聞こえ、わたくしと男達の間にエルミーさんが飛び込んできました。
あのドガっという音は、男達をわたくしから引き離す為に振り下ろされた斧が土を抉った音。
赤い髪が目の前で靡き、わたくしの前に斧を構えて男達と対峙する。
「エルミーさ……」
「……ずるい……」
「エ…………」
「私もまだキャリーたんにあんなにあからさまに罵られた事ないのに!」
「…………」
なんとなくそんな事を仰るのではないかという気はしておりましたけれど……!
本当に言うのですわね……!
「その上、なんなの……途中から聞いてたけどあんたら全然分かってない」
「途中から聞いてた?」
それってわたくしが彼らに取り囲まれた辺りから近くにいた、という事と受け取ってよろしいのでしょうか?
ああ、でもそういえばエルミーさんは森の入り口に置き去りにしてきた気が致します。
なるほど?
「女子はね! 生きてるだけで! 存在してくださってるだけで感謝の対象なのよ! テメェらなに勘違いしてんの、ぶっあーーーかっ! リアルの女子から相手にされない? そんなの当たり前でしょ! 女子っていうのは男のおれらよりずうっーーーっと生きるのが大変なんだから! お前らいっぺんネカマやってみやがれ!」
「……は?」
「ネカマ?」
「な、なんだネカマかよ」
「そーだよ! ネカマ歴十年のベテランネカマのおれが断言する!」
じゅ、十年は確かにベテランですわ……!
「リアルだろうがゲーム内だろうが、女子は尊い! そしてテメェらみてぇなクズはリアルだろうがゲーム内だろうが! ただの迷惑! これ真理なり!」
「「「「……………………」」」」
……初めてエルミーさんと意見があった気が致しますわ……。
「うっせぇ!」
「とぁ! ……キャリーたん!」
「っ」
手を握られ、引かれる。
逃げますの!?
「え、エルミーさん! 逃げるのは……」
「時間稼ぎしなきゃ!」
「!」
そ、そうですわね。
まだ警備兵が駆け付けるまで時間が掛かるはず。
それに、夜はモンスターも増えます。
兵は多いですが足止めされたりしているかもしれません。
「逃すかよ!」
「ネカマだろーが関係ねぇ! 足を狙え!」
「!」
槌を持っていた男が銃に装備を換えましたわ。
銃は威力は高いですが発砲音が大きい。
追われている身であんな物を使おうだなんて思慮が足りないのか、はたまた居場所がバレる前にわたくしたちを殺すつもりなのか……。
なんにしても一刻も早く木の後ろに隠れなくては!
「死ね!」
「きゃう!」
「キャリーたん!」
「か、かすっただけですわ!」
パン、という乾いた音がいくつか聞こえ、茂みに飛び込むとほぼ同時に左腿外側に熱い痛みを感じました。
でも、貫通したわけではなく本当にかすっただけですわ。
夜の暗がりで、動くものに当てるのは熟練度が高くなければ。
こんな事で外すという事は、本気で大した事ありませんわね!
「っ」
「キャリーたん、大丈夫!? くっそ、回復魔法まだ解放出来てないんだよねっ」
「だ、大丈夫ですわ、わたくし自分で使えますわ」
後頭部などの患部が見えないところは無理ですが……足ならば。
ああ、それと腕にもかすり傷を負っていたのですわ。
「……ですが、スモールヒールを使うと居場所がバレるので……」
「っ!」
パン、パン!
とまた性懲りもなく撃ってきましたわ。
ガサガサと茂みをかき分けて進んでくる男たちの息遣い。
わたくしたちも移動しなければ。
「…………」
でも、わたくし別に……ここで殺されても良いのでは?
卒業パーティーで、ハイル様に断罪されるよりも……エルミーさんが目の前にいる今ならば……エルミーさんに『わたくしを守れなかったカルマ』を与える事が出来るのでは……?
「…………っ」
そうですわ。
わたくし、ここで殺されても良いのですわ。
彼らの手にかかるのは少し怖いですが……次回はもっと早くに消えれば、ハイル様は幸せになれるかもしれません。
「エルミーさん、わたくし……」
「ダメだよ」
「え?」
「……聞いてたって言ったでしょ」
「…………」
どこから聞いていたのか。
わたくしの独り言も聞いていたのでしょうか?
だから手を離してくださらないの?
でも、わたくしはどのみち死ぬ運命。
あなたに殺される運命なのですわ。
「正直『次回』ってなんだよ、って思ったけどちょっと考えればすぐ分かるよね。キャリーたんはゲームのNPCなんだもん。けど、よく分かんないけど死ぬのはダメ。世の女の子が大変なのはネカマしてて分かるけどさ。……どんなに辛くてもそれはダメだよ」
「…………」
「おれは女の子の嫌がる顔とか蔑む顔とか大好きだけど、一番好きなのはやっぱ好きな人の前の笑顔なんだよね。キャリーたんがイケメン王子の前で見せるあの笑顔、尊い! あれは最っ高に尊い! その笑顔が出来るなら、諦めないで」
「…………エルミーさん……」
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