第22話ですわ!



 くぬぅ……!

 なんてガードが固いのでしょうか!

 私物を隠すのは……諦めますわ。

 次は制服を汚す、ですわ!

 本当ですとこの意地悪はゲーム内だとイベントが終わると元通りになるので意味はないのですが……なんかこのままではわたくし悪役令嬢としてなんにも成功してないみたいではありませんか!

 一つくらいビシッと成功させるのですわ!


「と、なればこれですわ! モンスターのフン《乾燥》!」


 これを水に溶かしてエルミーさんが食事中に制服にかけて差し上げれば……いえ、衛生面や匂い的なものも考えてお食事中はやめましょう。

 さすがに食堂では他のNPC生徒も食事していますし。

 わたくしも食堂で食べる時に毎回この事を思い出すのは……。

 ではどこで?

 とりあえず割れやすい水風船に入れて……と。


「完成ですわ! ずばり『モンスター避けの罠』ですわ! 少し作りすぎてしまいましたが、腐るものでもないのでアイテムボックスにしまっておけばまた使えますし……! ふふふ、これを投げつければフンの匂いにモンスターが他の奴の縄張りであると勘違いしてしばらく寄りつかなくなりますわ! あら?」


【スキル『生産』を取得しました】


「まあ、新たなスキルを覚えましたわ! やりましたわ、わたくし! なんだか今なら運が向いている気がしますわ!」


 やるなら今! と言われている気がします!

 空き教室から出て、エルミーさんを探しますわ!

 えーと、あら!

 玄関広間に発見ですわ!


「!」


 これは……出会いイベントの時の雪辱を果たす時が来たのではございませんか……?

 あの時、わたくしは目を瞑って卵を投げてしまったのでトンチンカンなところに落ちてしまいました。

 これは——その時のリベンジ!


「え、えーーーい!」


 く、くらいやがれですわー!

 あ、でもできればスカートの端っこの方……え、ええ、なんとなく怖いのであまり派手ではない感じでお願いします!


「?」


 ど、どうでしょう?

 べしょん、という音はした気が致しましたが……。

 手摺に身を隠し、恐る恐る下の方を眺めて確認をすると……や、やりましたわ!

 玄関から出て行くエルミーさんのスカートの端っこに茶色いものが付着していますわ!


「成功ですわ!」


 これでわたくしも一人前の悪役令嬢ですわね!

 ふふふ、エルミーさんはきっとあとで気づいて「えー、やだーなにこれくさーい!」と嫌悪に表情を歪ませる事でしょう!

 これがいわゆるざまあみやがれですわね!


「ん?」


 あら?

 玄関に落ちていた残りが、スーと消えていきますわ。


「…………はっ!」


 し、しまった……消費アイテムは使用すると効果を残して『消える』んですわ……!

 つ、つまり……エルミーの制服を汚した分も……!


「…………っ! また失敗ですわ……」




 ***



 めげませんわよ!

 空き教室に戻ってきて新たな作戦の準備ですわ!

 他にエルミーさんにやっていない虐めは…………いっぱいありますわ……!!

 た、怠惰ですわ!

 確かにどれも人間としていかがなものかと思われる極悪非道なものばかりではありますが!

 ストーリーが進んでいる割にさっぱりシナリオ通りの展開でない現状を打破する為には、これらを行わなければいけませんわよね!


「…………やりたくありませんわ」


 というより、わたくしのような小心者にはどれも痛そうで辛そうで悲しくなって参りますわ。

 階段から突き落とすなんて……ゲームの中でも絶対痛いですわ!

 現実でこんな事をしたら死んでしまうかもしれません。

 打ち所が悪ければ、意識不明のまま寝たきりとか……ひ、ひぇえぇえぇ……!

 絶対やってはいけませんわ!

 良い子の皆さんは絶対やってはいけませんわよ!

 人様の一生を台無しにしてしまうかもしれないのです!

 わたくしそんな責任とてもとても!

 とても負えませんわ!

 なんて恐ろしいいぃ!


「? 教室のお外がなにやら賑やかですわね……?」


 なにかあったのでしょうか?

 エルミーさんは先程学院からお出かけされていたようですし、エルミーさんをハイル様が追いかけ回しているとかではないと思われますわ。

 扉を開けて、廊下を覗いてみますと…………あら、ハイル様がやっぱり廊下を走っておられますわ。

 しかもなにやらとても焦っておいでのような?

 まあ、奥の通路からエイラン様まで……一体どうされたのでしょう?


「ハイル様? エイラン様も、なにかありましたの?」

「キャリー! 良かった無事だったんだな!」

「は? はい?」


 わたくしが近づいてお声をかけたら必死の形相で肩を掴まれました。

 ハ、ハイル様がこんなに慌てておられるなんて……。

 しかもわたくしの身を案じて……?


「…………」


 よ、喜んでいる場合ではありませんわ……!

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