第21話ですわ!



 ……結局実践訓練も上手くヒロインを虐められた気が致しませんわ。

 と、わたくし、夜の自室で本日も一人反省会です。

 せっかくヒロインに対してキャロラインが行う嫌がらせ、虐めの数々を書き出したのに、ほとんど喜ばれるばかりで効果をなしておりませんし……。

 ああ、本当に良い子は真似しないでくださいませ……!

 二つの意味で!


「…………い、いよいよ次はハイル様とエルミーさんの町でのデートのはずなのですが……」


 ハイル様は本日の件でなにやらわたくしの側を離れなくなり、エルミーさんが近づくと威嚇なさるようになったのですわ。

 以前もそんな感じでしたが、今日はもう警戒心マックスの野良猫のようでした。

 エルミーさんもハイル様には「ガルルルルルル!」と獣のような唸り声をあげて……。

 あれでは人ではなく野生のモンスターです。

 わたくしたちが通うのは高貴なる貴族の学院ですのに……。


「いえ、とにかくエルミーさんの私物を隠して隠して隠しまくりましょう! わたくしにできる事はそのぐらいですもの。友人の皆様にもお手伝い頂き、ありとあらゆるエルミーさんの私物を隠すのですわ!」


 えいえい、おー! ですわ!




 ***



 というわけで本日からエルミーさんの私物を隠す作業開始ですわ!

 気配を殺してエルミーさんが私物を預けるロッカー……ええまあ、普通にアイテムボックスの中から溢れた道具を預ける倉庫ですけれど……から、エルミーさんが良く使う物を取り出して隠してしまいます!

 そこで! わたくしが使用するスキルはこちらです!


 悪役令嬢キャロライン固有スキル!

『対プレイヤー専用倉庫荒らし!』と『盗む』ですわ!


 ほぉーっほっほっほっほ!

 わたくしがただの役に立たないご令嬢だと思っていたら大間違いですわ!

 意外とこういうヒロインを虐めるのに特化したスキルがたくさんあるのですわ!

 引き続き、ご紹介できるようになりましたら皆さんにもご紹介致しますわ!

 楽しみにお待ちくださいませ!

 え? 今更?

 そそそそそそんな事ございませんわ!

 大丈夫、まだ巻き返せますわ!

 え? 所有スキルを見せろ?

 後のお楽しみですわ!

 そしてわたくし今後もヒロイン虐めに使えそうなスキルはこっそり習得して増やして参りますので、エルミーさんは後で吠え面かくなですわ!


「いざ!」

「……………………」

「…………」

「……ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅ……」

「……………………」


 ……き、ききききき気のせいでしょうか?

 は、は、は、背後からなにやら荒々しい息遣いのようなものが感じられますけれど……。

 な、な、なんとなく髪の毛を、すううぅ、と吸われているような感覚すらございますわ。

 それに、こ、この、気配……。

 まさか。

 いえ、事前にこの時間帯はログインしてらっしゃらないと調べがついておりますわ……。

 い、いるはずがございません。

 ええ、そんなはずは……!


「ふぅー……ふぅー……ふぅー……」

「……ぁ……あう……」


 いえ、いる。

 だ、誰がが確実に背後におります。

 教室の中は静まり返っておりますが、いえ、だからこそわたくしの背後に……間近に感じる荒い息遣いと体温のようなものがいやに…………背筋を冷やしますわ。

 体が自然に、なにかに怯えて震え始めます。

 いや、そんはずはない。

 そう否定しても、その気配が消える事はありません……。

 ダメです、振り返って確認しなければ!

 い、いえ、無理です……振り返ればその瞬間、なにか、この世のものとは思えないなにかに……出会ってしまうような——!


「そこでなにをしている!」

「あ! キャロラインさんなにしてるんだ!」


 こ、この声はハイル様とエイラン様!

 カツカツという靴音。

 あ、あああ! まさかわたくしがエルミーさんの私物を隠すべくエルミーさんのロッカーという名の倉庫を荒らそうとしていただなんて言えませんわ!

 あ、いえ、ここは正々堂々と宣言して、ハイル様にわたくしを嫌いになって頂くチャンス……!

 で、ですが! 振り返るのが怖いです〜〜!

 絶対になんか後ろにいます〜〜っ!


「キャリーから離れろ変態め!」


 ああああぁぁぁ!

 やっぱりエルミーさんが……!


「今匂い嗅いでるんだから邪魔しないで!」


 に、にににににおい!?

 なぜ匂い!?


「やめなよ、怯えてるじゃないか!」


 ふ、振り返るまでもなく怯えているのがバレています!?


「手は出してないからセーフでしょ!」


 セーフではないです!

 怖いです怖いです!

 というかそれ最近はやりの触ってない痴漢の言い訳ではありませんかー!


「……いや、触った方がキャリーたんの正当防衛が成立するかな? でもご主人様に奴隷から触るなんてなんかイケナイ事してる感じだし……ふぅふぅ……」

「ひ、ひいぃ……」


 後ろでなんか言ってます!

 ご主人様ってなんですの〜!?

 わたくしエルミーさんのご主人様になんてなった覚えはございませんんんっ!

 相変わらず会話が成立しないというかなにを言っているか分からないというか〜っ!


「キャリーたん良い匂いすぎてやばたん……はあはあ。匂い再現度高すぎやしねーか超やば……はぁはぁ……」

「お前がヤバイよ!」

「キャリー! 今のうちにこっちへ!」

「は、ハイル様〜!」



 …………ロッカーの私物を隠す計画、失敗ですわ!


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