第17話ですわ!



「改めて、エイランです。よろしく」

「よろしくお願い致しますわ。わたくしはキャロライン・インヴァー。魔法が少し使えます」

「オレはこれ!」


 と見せてくださったのは腰に下がった双剣。

 ですわよね〜。

 いえ、しかし本当にすごい事ですわよ、双剣のスキル保有は。

 装備も一点ものではないでしょうか?

 ご自分で作られていたりして?

 白い鎧と、白い陣羽織。

 見た目はどこか戦国武将風ですわね。

 うん、とても似合っていて素敵ですわ。


「じゃあ行こうか」

「はい」

「…………。ところで、あそこの二人って知り合い?」

「え?」

「「……………………」」


 ウワァ……。

 ハ、ハイル様、エルミーさん……こちらをものすごい顔で睨んでます。

 な、なぜ!?

 せっかくの二人きりですのよ!?

 もう完全にシナリオ進行の教師NPCさんが気を遣って二人きりにしてくださったんですから、お二人もNPCに気を遣ってストーリーをシナリオ通りに進めてくださいませ!

 それが無理と言うのなら、仕方ありません!

 ここは悪役令嬢らしく、二人の仲をより親密にさせてご覧に入れますわ!

 わたくしが最終的にギャフンと殺される為に!


「こ、こほん! お、おーふおっっぐっ!」

「キャロラインさん!?」


 か、噛みましたわ!

 毎日練習していたのに本番で噛むとはなんたる無様!

 まだまだ高笑いは練習が必要のようですわね……!


「っ……ほほほ……」

(急な小声!?)

「んん! エルミーさん! わたくしは貴女に勝負を挑みますわ!」

「え!?」


 え、とハイル様とエイラン様も意外そうな顔をなさる。

 ですが、これまで同様……悪役令嬢たるわたくしがヒロインに遅れを取っているわけにはいかないのです!

 ここは悪役令嬢らしく姑息かつ大胆にいかせて頂きますわ!


「今回の実戦訓練で覚えるスキルは『狩り』『鑑定』『採取』ですわ。ですからどちらがより多くの獲物と、上質な素材を採取してこれるかを勝負致しましょう!」


 …………実戦では勝てる気がしませんので。


「わたくしが負けたら貴女を虐めるのをやめて差し上げますわ!」

「ええ!? じゃあ私の負けでいい!」

「…………」


 なるほど、条件を見誤りましたわね。

 ええと?

 ではどうしたら良いのでしょうか?


「こほん。……わたくしが勝った暁には貴女は素直にわたくしに虐められる事を嫌がって頂きますわ!」

「わぁい! 嫌がる嫌がる〜!」

「…………」


 んん?

 これも違いますの?

 あら?

 なんだかだんだんよく分からなくなってきましたわね?

 わたくしが虐めるとエルミーさんは喜んでしまうから?

 わたくし以外の方にエルミーさんをいじめて貰えば良いのかもしれませんわ!


「こほん! やっぱりわたくしが勝ったら貴女を虐める役目をわたくしの友人たちに任せる事に致しますわ!」

「え! それは嫌だな!」


 正解はコレでしたのね!

 ではこのまま行きますわよ!


「それが嫌なら、せいぜい這いつくばって上質な獲物や素材を探す事ですわね! おーっほっほっほぐっほっ!」

「キャリー!」

「ケホケホケホケホ!」


 決まりましたわ!

 ……と、思ったのに噎せましたわ!

 家で練習している時は大丈夫でしたのに〜!

 ああ……ハイル様が背中をさすってくださる!

 おかげですぐに落ち着きましたわ。


「あ、ありがとうございます、ハイル様」

「無茶するからだぞ。…………」

「へ?」


 ハイル様がわたくしの後ろの……エイラン様を睨む。

 なぜ?


「キャロラインに、俺の婚約者に傷一つでもつけたら許さない」

「……! は、はい、分かりました……」

「ハ、ハイル様……」


 なんて事を仰るの……わたくしは大丈夫ですのに……。

 そもそもこれから行くのはビギナーダンジョンの『川べりの森』ですわ。

 危険は少ないのです。

 それに、わたくしは貴方に嫌われなくてはいけないの。

 そんな……わたくしを心配するような事を仰らないで。


「本当なら俺が君について行きたいのだが……」

「い、いけませんわ。先生がバランスを考えて選んでくださったのですから」


 シナリオの!


「くっ……あんな変態女と……!」

「それはこっちのセリフですー! 邪魔者王子ー! イケメンだからって人の性癖を邪魔して良いと思わないでよ!?」

「な、なんの話!?」


 ああ、エイラン様はエルミーさんの事をご存じないから!

 道すがらご説明しておきましょう。


「………………」


 ハイル様がエルミーさんに冷たいのはエルミーさんの性格……せ、性癖がああだから、それに合わせているのではないのでしょうか?

 わたくしについてきたいだなんて……。

 ハイル様はNPCであるご自覚があるようでした。

 だったらご自分のお役目はよくよくご理解されているはず。

 それに、それならばわたくしの家に来た時にわたくしの『お祖父様』や『お父様』を気になさる必要はないのでは?

 ハイル様がこの国の王太子である、という設定があの方の中の全てだとするならば、この国で王よりも権威を持つお祖父様とお父様に「ご挨拶を」と仰るのも分かるけれど……。

 自覚がある上で、混在している?

 今のわたくしのような感じなのでしょうか?

 わたくしは……。


「キャロラインさん?」

「あ、申し訳ございません、エイラン様。では参りましょうか」

「うん……。えーと、キャロラインさんはプレイヤー?」

「え?」

「いや、他のNPCとは全然違うから……話し方とか表情とか。あの王子様? もだけど……」

「ああそれは、わたくしたちが特別なAIを積んでいるからですわ。わたくしとハイル様はNPCの中でもシナリオに関わるので特別ですの」

「へえ、そうなんだ」

「…………。…………?」


 特別なAI。

 あら? そう、だったでしょうか?

 それに、なんでスムーズに説明できたのでしょうか?

 NPCとしてこんな事プレイヤーに言う事ではないような……?


「…………っ……」

「どうしたの? 頭痛?」

「い、いえ……なんでもございませんわ」


 無意識に頭を押さえておりました。

 わたくし、やはりなにか忘れていますわね。

 でも、どうやって思い出したら良いのでしょうか。

 い、いえ、今は……今は勝負!

 ええ! 悪役令嬢として、ヒロインをギッタンギッタンのバッコンバッコンにして差し上げるのが最優先ですわ!

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