この小説のタイトルは長いのでとりあえず「潮バス」にしておく
鶴狐
第一話 下らない僕の話は僕が一番不快になるのだけれど、友達と僕の感情の話はしたい(共感は得られないかもしれないけれど)
僕は夏が好きではない。汗をかくし、なんだか空気がどてーっとしていて、自分の呼吸音すら、煩わしい。
夏休みは好きだ。学校に行かずにすむから。家にもいたくはないけれど。学校は、嫌いだ。いじめを受けているわけでも、友達がいないわけでもない。嫌いな先生がいるから、とか、苦手なクラスメイトがいるから、とか、そういうのでもない。嫌いな人や苦手な人もいるにはいるのだけれど、だから、学校に行きたくない、ということではない。僕自身、どうして学校が嫌いなのか、分からない。
学校が嫌いだから、家が好きだ、というわけでもない。僕は、家も嫌いだ。家族は、父親と母親、そして僕の三人家族だけれど、僕が家(家族)に対して持つ感情は、一つだけだ。まぁ、この感情は学校に対しても抱いているのだろう。
僕は、別に秀才でもないから、授業を受けないとテストがかなりひどい結果になるし、家にもいたくないし、サボる勇気も、逃げる強さも、生憎持ち合わせていないから、仕方なく学校に通っているような、そんな生徒だ。
我ながら、めんどくさい人間だなと思う。そもそも、僕はこういう、自分語りのようなモノが苦手なのだ。僕にとって、自己肯定は、とても難しいからだ。というか、自己肯定ってなんだよ。自分を認める、とか、認める要素がない僕はどうすればいいんだ?自分を客観的に見ろ、といわれるけれど、自分は結局自分だろ。他人から見た自分なんて見えるわけないのに。鏡をみながら、鏡の中の誰かの瞳の裏側を覗くようなものじゃあないか。できるわけない。できたらいいな、とは思うけれど。
僕が学校や家が嫌いな理由。それは、先刻語った、一つの感情に関係しているのではないか。僕は勝手にそう思っている。正しいという確証もないけれど。
その感情の名は、恐怖。そう、僕は、こわいのだ。父親が僕を殴るから、みたいな、肉体的苦痛から来る恐怖じゃない。いや、殴られたこともあるのだけれど、僕も父親も人間 で、喧嘩やいらつきから、誰かを殴ってしまうことだってあるだろう。そういうことじゃなくて、人間特有の、取り繕ったこわさや、かっこよくいえば、集団心理が、僕は、こわい。学校は、いつだって、ぐちゃぐちゃで、ごたごたで、ぼとぼとで。廊下を歩く度に、灰色の太い蛇に巻きつかれているような心地がする。犬がわんわん鳴く、愛と憎悪に塗れた、小さな社会。なんて、どこかの馬鹿な詩人みたいだ。気持ち悪い。友達が、仲間がいるのが当然、みたいなルールが丸見えだ。そんなルールに従って、一生懸命集まった集団に問いたいが、本当にそれで、『友達』と呼べるのか?家は、いつだって他人の気をうかがうように僕に話しかける母親と、自分が全て正しいのだと云わんばかりの父親がいる。人間とは、こんな存在なのか、と失望する場所が、僕にとっての家だ。家も、学校も、エゴエゴエゴ、エゴの塊で、人間とはエゴイストしかいないのだと思い込まされる。お前、絶対友達いないだろ。残念、それが、いるんだなぁ。…一ヶ月前に死んだ友達が。
自殺だった。まぁ、どうせ人間なんて百年くらい生きれば死ぬんだから、死因なんてどうでもいい、と考える人もいるんだろうけれど。嗚呼、良い奴だったのにな。優しくて、おもしろくて、頑張って生きてたのになぁ。お前ほど、僕を分かってくれる奴はいなかったのにな。エゴなところもあったけれど、どちらかといえば自己犠牲の塊のような人間。そう、僕も、あいつも、人間だ。取り繕って、苦しんで、努力して、そして、死ぬ。それが、人間。でも、幸せな人間もいて、そういう人達は、僕らと何が違うんだろう、という話をよく一緒にしたっけなぁ。
… 僕が殺したのか。自殺、という事件が起これば、大抵、周りの人間が、どうして気づけなかったのか、と懺悔する。僕は、気づけなかったわけじゃない。気づいていた。知っていた。でも、助けられなかった、いや、助けなかった。確かに、僕らは友達だ。ただ、互いを助けあうことはなかった。それだけの事だ。もし、僕が助けられたら。…できない。僕に誰かを救う力なんてないのだから。助けようとしたら変わった?そうしようとしたさ。伸ばしたその手で友達を押したから、友達は死んだっていったら、嘘だと思うか?よくある話じゃないか。伸ばした手がひどく汚れていたんだよ。友達は汚れたくなくて、後ずさった。後ろがたまたま崖だった。 僕の友達は死んだ。以上。
死んだって何も変わらない。それでも生きるしかない。そんな言葉で励ましたって、何の意味がある。正論が聞きたくなくて耳を塞いでは、壊れた心をガムテープで修理して、そんな日々を終わらせようと、死んだっていうのに。
だけれど、僕は、友達が羨ましかった。逃げる勇気も、我慢する強さもないから。腕と首の傷跡だけが、僕が唯一認められる自分だ。友達のために手を洗うことさえ躊躇してしまう僕が
「死にたいよ」
そんな言葉を呟いても、風鈴の音に掻き消されて終わりだ。
明日からは、夏休み。来年は高校受験のある三年生だから、勉強しなさい。担任教師がそういっていた。もちろん、する気なんてないけれど。終業式の帰り道、海をみながら歩く。今日も羊が飛行中。真っ青な海と金色の羊。見慣れた光景だ。どこかにもっと面白い、ファンタジーみたいな世界が広がっていないだろうか。
「あるわけないだろ」
そういって僕を嗤うかのように、遠くで誰でもない笑い声が聞こえた。
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