第9話
住民それぞれが畑を持ち、狩りをするようになると、食料事情は安定した。
試しに一日。俺もリーフも『狩り』や『畑仕事』という食料調達になる仕事をしないで確認してみたが、村で食べる分の食料は村人だけでも賄えるようだった。
そうなれば俺とリーフが作ったり狩ったりした分は備蓄に回せる。
備蓄が増えるということは、『買い物』に行くことも出来るということだ。
切り替わった視界に映るのは、レンガ作りの街並みだった。
俺の貧相なイメージではヨーロッパっぽいという感想しか出て来ないが、定番のファンタジーの街並みというのだろうか。村は木造の小屋しかないから、レンガ作りの街並みは文明的に見える。
ガイドの矢印の示すままに、一軒の建物に入る。
扉を潜ると、そこには雑多な品物の数々が並んで居た。どうやらここはお店のようだ。
いくつもの棚で仕切られた店内には、大小様々なランプや、皮製の袋、椅子やテーブル、売り場の片隅には斧や剣も置いてある。
置いてる品物の種類が多すぎて何の店とも言えない。強いて言えばホームセンターだろうか。見て分かる範囲の品物は、村の生活に必要な道具類だった。そう思いついてから、改めて見回せば、電動工具の類はないものの、ホームセンターの品揃えそのものに見えてくる。
ガイドの矢印は、店の奥のカウンターを示している。
カウンターの前まで進むと、店員から「買い物かい? それとも売りに来たのかい?」というセリフが流れた。
ごつい体格のおっさん店員だ。店員というより、引退した傭兵という見た目をしている。わざわざ顔に古傷がついているのは、何か開発陣にこだわりでもあったんだろうか。
ポロンという音と共に、目の前にウィンドウが現れる。選択肢は『買う』『売る』『ところで』の三つ。『ところで』ってなんだ。
よく分からない三つ目の選択肢は置いておいて、まずは『売る』を選択する。次に品物の選択ウィンドウが開いたので、売りたい品物を選ぶ。
このあたりはよくRPGなんかでもある売る方法を変わらないらしい。てっきり露天を開いて売るのかと思っていた。簡単に済むのは楽なんだが、ちょっと拍子抜けだ。
売り終わると手元には480ルピーが残る。ルピー。どっかで聞いたことがあるような。
この世界のお金の単位はルピーということらしい。どこかの国の通貨単位だったか。それとも別のゲームで見たのか。
単位のことはともかく、次は『買う』を選択する。
いつものポロンという音で現れたウィンドウは、珍しくスクロールバーがついている。このゲームでスクロールバーを見るのは初めてじゃないだろうか。
軽くスクロールして品ぞろえを確認してみる。
食料が最初にきて、次に斧、
何を買おうか。
手持ちは480ルピー。これは食料を売ったお金だから、食料を買って帰るのはどうかと思う。
リアルであれば村で栽培していない食料とか、調味料というのも選択肢としては大いにありなんだが、ゲーム的な効果があるのかもわからないまま、食料や調味料を買うのはなしだろう。そういやこの辺りの食事効果って、攻略サイトでも見た覚えがないな。
となると道具類だろうか。
村でも使ってるから、今更買う必要もない気もするし、新しく増えた村人のマイン達って農具なんて持っているのかというのも今更気になってくる。
ゲーム開始時にはリーフも居たと言っても、本来ならプレイヤーが一人だけで森の中に暮らしていた設定だ。そういう意味ではリーフ用の道具がある時点でおかしい。
鍬に視線を合わせるとポップアップが表示される。ポップアップ表示には「畑仕事、開墾に使える農具。作業効率が上がる」とある。効率が上がると書いてあるのだから、村人全員が自動的に農具を手に入れているとは思わないほうがいいか。買って帰ろうか。
ちらりと視線がプレゼントに向く。プレゼントという説明がある以上はプレゼントであることは疑いはない。それはつまりリーフにあげたら愛情が上がるんじゃないだろうか。破壊力ばつ牛ンな熱い目で見られちゃうんだろうか。ちょっと気になる。気になる、が、高い。
手持ちの480ルピーでは買えない。一番安い衣服でも500ルピーと書いてある。
最も、道具類を見ても鍬一つで300ルピーなので、手持ちの金が少ないというのが正しいのだろう。
売る物が食料しかない今の時点では買うものじゃないっぽい。
手堅く、農具を買って帰るのが良いのだろう。これで生産効率が上がれば売れるものも増える。
鍬を一つだけ買って、『買い物』はおしまいだ。
帰る前に、最後に『ところで』を選択してみる。
「お前はまだ取引が足りないな」
ああそうですか。
*
仮初の体は次第に大きく育っている。最近は成長が止まり始めているのは、成体が近いということか。
個体差か、群れの長の男までの大きさにはならないらしい。
大きさ、重さはそれだけで力だ。
大きな個体である群れの長は、やはり下僕にしたいところだ。
だが一向に無防備な姿を見ることはない。そして我が目覚めている時間も極めて短い。ふとしたことで昼が夜になり、夜が昼に変わる。
仮初の体の掌握が進まない。
僅かに回復した力で無理にでも掌握を進めるか。
自由に動けるまでの時間はまだまだ掛かるにせよ。目覚めている時間を増やせれば、この世界のルールを把握出来る。
あの男や群れの者達を下僕にするためにも情報を優先せねば。
おのれ、なぜ我がこんな苦労をせねばならん。
見ておれよ愚物共め。
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