Virtual Game OutRange 3 -小屋と畑と少女の記録-
工事帽
第1話
プロローグはムービー形式で始まる。
主人公であるプレイヤー視点だが、ナレーションと共に自動で動きストーリーが進んでいく。
ゲームの導入としては少なくない方法ではある。ただ、VRでやられると操り人形になったみたいで少し気持ち悪い。
俺の気持ちを置いてきぼりに、ストーリーは
戦乱の世、繰り返される戦いに疲れた英雄は軍から身を引く。引き留める声を振り切って街を出た英雄は、森の奥に一人、ひっそりと暮らし始める。
森を切り開き、小さな小屋を建てる。その脇には小さな畑も。
木を切る姿、小屋を建てる姿、土を耕す姿が次々と切り替わり、森の中だった場所に人一人が暮らせるだけの空間が出来上がる。
男がそこで暮らし、季節が
小屋に連れ帰り、看病する男。目が覚める少女。だが少女は、記憶を失っていた。
そんなオープニングストーリーが語られて、視界は一度ブラックアウトする。
VR(ヴァーチャル・リアリティ)。その言葉は幾多の娯楽の一つとして生を受けた。
仮想現実とも呼ばれるその虚構の空間に、様々な物語を詰め、その世界でしか通用しないルールで無限の自由を謳歌する。
その娯楽は、ヘッドセットと呼ばれる被る物から始まり、次第にその範囲を映像と音のみならず、臭い、声、そして触覚まで網羅するに従って全身を覆うように進化していった。
VRはその汎用性の高さから、娯楽に限らず、教育にもビジネスにも、そして軍事にもその用途を広げていったが、娯楽は、多くの娯楽がそうであるように、黎明期の起爆剤となったのは、エロであった。
人の三大欲求と呼ばれる、食欲、睡眠欲、そして性欲。
生き物の原始的な欲望であるこれらのうち、食欲、睡眠欲はそれを拒み続けると死に至る。正に、生きていくための根源である。
そして性欲。拒んだとしてもそれ自身が自分の命に関わるわけではない。だが、時代の命に関わる最後の欲求は人類の歴史の重みを持って個人に迫る。
黎明期を遥かに過ぎ、多くの用途でVRが利用されるようになるにつれ、直接的なエロ表現を含まないジャンルへもVRは広がっていく。エロ表現を伴わないコンテンツが増えるに従って、他の娯楽と同様に、エロは害悪とのレッテルを張られ自主規制の枠組みが作られる。
しかし、一方では間接的な表現を含むソフトなエロ表現への需要は根強い。僅かに覗く日焼け跡、下着が見えそうな体勢、至近距離での会話等、日常的な表現の中に入れ込んだ様々なシチュエーションはジャンルを問わず多用され、コンテンツの人気の一端を確かに支えていた。
ナレーションが終わり、視線が切り替わる。
薄暗い小屋の中だ。窓は開け放たれて、そこから外の光が差し込んでいる。それに照らされて、ベットの上に身を起こした少女が見える。
黒髪のショートヘアの少女の体は小さい。どういう環境で育ったのか、栄養に問題があったのかは不明だが、痩せていて、見た目は十歳にも達していないように見える。
ポロンという音と共に、目の前にウィンドウが現れる。
「やあ、目が覚めたかい?」
選択肢はその一つだけ。
会話は選択式で行うらしい。
視線でセリフをターゲットして、頭の中で選択肢をノックする。ウィンドウが消えると、少女は口を開いた。
「ここは、どこですか」
か細い声。
森で倒れていたところを助けてきて、やっと目覚めたというところだろうか。
いくつかのウィンドウを選択して会話が続く。ほとんどのウィンドウには選択肢が一つしかなく、二つある時でも選択によって展開が変わるとは思えないものばかりだ、まだこれはチュートリアルの途中なのだろうか。
そうして会話を続けていくと、今度は入力用のウィンドウが広がる。
「名前を入力してください」
ああ、やっぱりまだチュートリアルの途中だったらしい。
自分の名前と、記憶のない少女の名前を決めて、物語は続く。
「ロックさん……」
『ロックでいいよ』『様をつけろよ』という選択肢から『ロックでいいよ』を選択して、少女、リーフと名付けた少女との二人暮らしが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます