第644話 今の気持ち

精神世界での白雪さんとのやり取りは時間を忘れて続いた。しかし、それを邪魔するようにフェリからメッセージがくる。


「勇太、治療プログラムの準備ができました。しかし、すぐにでも投与を開始したいのですが、対象の精神レベルの高揚的上昇がみられます。このままでは治療プログラムの効果が弱くなってしまいますので、できれば彼女のコアの精神を平常値へと誘導してください」


「平常値へ誘導ってどうするんだよ」

外から監視しているフェリには頭に思い浮かべるだけで、伝わるので口にしないでそう伝えた。


「寝るのが一番いいでしょうね、対象が眠るように誘導できませんか?」

「いや、無理だって、ここは公園だぞ」

「でしたら、できるだけ感情の起伏がないようにしてください。できるだけ興奮などしないように、精神が安定する話をしてください」


精神が安定する話ってなんだよ、本気でわからなかったけど、白雪さんをおいてフェリと言い合いをしている暇はない。ここは自分なりの安定する話をふるしかないと思った。


「そういえば、白雪、どうしてここにいたんだ?」

「だって、ここは私にとって大事な場所だから……」


俺と同じようにこの場所に何か思い出があるのか、白雪さんは思いにふけりながらそう答えた。


「勇太くんはどうしてここに来てくれたの?」

「白雪を探してたんだ」

「私を?」

「ああ、君が困ってると思って」

「私……確かに困ってる。何か大きな力にギュって押さえつけられて、自分が自分じゃなくなる感覚になってたの、なんとか無我夢中で抗おうとしたんだけど、なんだか疲れちゃって、もうあきらめようかと思ってたくらい」

「そうか、でも、もう大丈夫、その大きな力ってのはそのうち無くなるよ」

「ほんと? そっか……勇太くん、私を助けに来てくれたんだね」


事実白雪さんを助けにきたんだけど、それを本人に言うのもなんだか恥ずかしく、ごまかすようにこう言った。


「いや、結果、そうなっただけだよ、エミナやみんなの気持ちが、俺がここにこさせたんだ」

「勇太くんの気持ちは? 勇太くんは私をどう思ってるの?」

「俺ももちろん、助けたいと思ってるよ」

「ありがとう、でも今聞きたいのはそういうんじゃなくて……」

「えっ!? どういう意味だ?」


「勇太くん、ええとね、私……」


そう言うと、白雪さんはふわっと力が抜けたようにいきなり眠りに入った。すーすーと公園のベンチに座ったまま眠る彼女を見ながら状況がわからずに狼狽える。


「すみません、勇太、彼女の精神レベルの上昇が止まらず、仕方なく、投薬で鎮静させました。このまま落ち着いたら、治療プログラムの投与を開始します」


どうやら最終手段で強制的に鎮静させたようだ。まあ、それはそれでいいと思うんだけど、最後に白雪さんは何を言おうとしてたんだろうか……ちょっと気になる。

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