第636話 高難易度

白雪さんを助ける為に、一度彼女との距離をとる。その瞬間、隙だと判断したのか周りの敵機が殺到してきた。


襲ってきた敵機を処理していると、フェリの安全にハッチを破壊する計算が完了した。

「周りの状況を加味すると、ハッチをこじ開けるのは逆に危険です。ここは剣での一撃で、ハッチを破壊することを推奨しますが、正面から打ち込んではかなりの確率で操縦者を傷つけてしまいます。相手の機体が左足から踏み込んできたタイミングで、出力25%でハッチの右上部分を正確に狙って攻撃してください」


計算しろといった手前こういうのもなんだけど、なんとも無茶苦茶難しそうなリクエストであった。しかし、ここは集中して実行するしかない。フェリの指示を頭に叩き込みながら呼吸を整えて集中する。


「エミナ、周りから妨害されないように少し時間を稼いでくれないか、」

「わかった。勇太は結衣の救出に集中して!」


エミナを信じて、ハッチを壊す一撃に集中する。その間も白雪さんは暴れながら何かに抗っているように見える。そんな彼女が、一瞬動きを止めると大きくこう叫んだ。


「勇太くん!! 助けて!!」


あまりにもインパクトが強い言葉で、一瞬で集中が切れてしまった。しかし、内容は俺を奮起させるものだ。絶対に助けてやる! ものすごい勢いで集中力を回復させた。


「よし、準備OKだ。白雪さんと間合いを詰めるぞ!」

「気を付けてください。殺気がさっきよりあがってます」


そのフェリの警告通り、彼女は叫び声を上げながら強烈な攻撃を繰り出してきた。しかし、強烈な攻撃を繰り出す時は隙も大きくなる。俺はこの瞬間を見逃さなかった。


黒い魔導機のコックピットに意識を集中する。強力な集中は時間の経過をゆっくりとさせる。それと同時に白雪さんとの思い出がお走馬灯のように頭をよぎっていった。その記憶は雑念とはならず、気持ちの高揚と集中力をさらに高めていき、白雪結衣を助けたい、その一心に集約していく。


集中力が限界を突破し、完全に白雪結衣の魔導機の動きが遅いスローモーションに見える。そんな止まったような動きの魔導機のコックピットに狙いを定め、俺はハッチを破壊する一撃を放った。


先ほどまでハッチだった金属製の部品が勢いよくはじけ飛ぶ。コックピットの中がむき出しになり、憧れの彼女の姿を捉えた。しかし、それを喜んでいる場合ではない。このままではむき出しになったコックピットから放り出される可能性がある。すぐに助け出さないと危険だ。


だけど、白雪さんの機体はコックピットがむき出しの状態でもまだ暴れている。無理やり引っ張り出すのも難しい状況だった。


「エミナ! 俺が機体を抑えるから、その間に白雪さんを助けてくれ!」

「任せて!」


優秀なエミナはすぐに状況を理解して行動に移してくれる。周りの敵機を一区切りするように一掃すると、白雪さんのもとまで近づいてきてくれた。


暴れる白雪さんの魔導機の両腕を掴み、動けないようにする。白雪さんは動けなくなって興奮したのか叫び始めた。

「私は家に帰るの! 邪魔しないで!!」


「エミナ、今だ!」

「了解!」


エミナは動けなくなった魔導機から慎重に白雪さんを掴み出し、大事に保護した。しかし、そのタイミングを待ってたかのように、敵から一斉攻撃が開始された。俺は白雪さんとエミナを守るように敵の攻撃を受け止めようとした。だが、それより前に、白雪さんの部下たちがその攻撃を肩代わりする。


「ぐっ、ここはあっしたちに任せて行ってくだせえ! お嬢を頼みましたよ!」


白雪さんを慕う部下を見過ごせなかった。俺は一緒に逃げようと提案した。しかし、それを彼らは断る。


「いえ、どっちみちこの機体の状況じゃついていけやしないです。今はお嬢の身の安全を一番に考えてくだせえ」


確かに言うように、彼らの機体は動くのもやっとのボロボロの状態だった。どうしようもなくやるせない気持ちになったが、彼らの言うように一緒に逃げるのは不可能だと感じた。

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