第562話 真意

「はい。フィストアは実の兄です」

確かに言われてみれば少し似ているかもしれない。


「ふむ、しかし、どうして勝負には勝って欲しいのにリミッターなんか付けたんだ? その真意はなんだ?」

「まだ、勇太の現在の力を結社ラフシャルに知られたくなかったからです。まともに戦えば、世界屈指のライダーである兄すら簡単に倒していたでしょう。その実力を結社が知れば全力で勇太を手に入れようと動くはずです。勝負には勝ち、実力を知られないようにリミッターを取り付けたのです」


「なんだ、監視対象に情でも湧いたのか?」

「それもありますけど、勇太は人類の希望です。結社ラフシャルに使い潰させるわけにはいけません」


人類の希望とか言われると、どうもこそばい感じになる。


「人類の希望とは随分と評価しているようだが、勇太を何と戦わそうとしているんだ。エリシア帝国でも結社ラフシャルとも違うなにかか?」

「人類、共通の敵、巨獣です。みなさんもお気づきだと思いますけど、巨獣との大きな戦いが目の前まで迫っています。その時、人類の切り札になるのが勇太だと思っています。本当は人同士で戦っている場合じゃないのに……」


「なるほどな、それにしてもフィスティナ、お前の考えは随分と結社の意向とはかけ離れているようだが、どうしてそこまで主義の違う組織に属しているんだ」

「それは私が総帥の娘だからです。生まれた時から望まなくても結社員として育ちました」


驚いた、まさかフィスティナが結社の総帥の娘だったなんて……。ジャンも心底驚いているようだ、一瞬、何か言おうとしたが言葉が詰まる。


「それで、スパイであり敵の総帥の娘である私の処遇はどうするつもりですか? 死刑にされても文句は言いません。だけど、後の事は、巨獣のことはお任せします。どうか人類をお救い下さい」


「死刑? 俺たちは軍隊でも独裁国家でもない。スパイに対しての規定もないし、どうこうするつもりはない。今まで通り無双鉄騎団で働いてもらうつもりだ」


ジャンは平気な顔でそう言い切った。

「ちょっと待って、私はスパイなんですよ! これまでも結社に無双鉄騎団の情報を伝えていたんですよ! それなのに処罰もせず、そのまま雇用するなんてどうかしています! 勇太、あなたはそれでいいんですか!」


「いいもなにも俺も同じように考えていたからな……フィスティナは優秀だし、いなくなったら困る」

彼女が悪人じゃないのは間違いない、俺は迷わずそう返した。


「……本当に変わった人たちですね……だから私は…………」


「おいおい、それに処罰をしないなんて言ってねえぞ、フィスティナ。お前、実力を隠していただろ? これからはそれを解放して全力で働いて貰うから覚悟しろよ。倍は働いて貰うからな。それとこれからは結社ラフシャルの情報元として重宝させてもらう。嫌とは言わせねえぞ」


フィスティナは笑顔なのか泣きそうなよくわからない表情でウンウンと何度も頷いた。

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