第563話 地獄のように/結衣

ラフシャルによる政策で、成人する国民にニトロルーディアの処理がされると、国の雰囲気は一気に悪い方向へと変わった。処理が失敗した人たちが街にあふれてくると、社会秩序は崩壊していく。経済は下落の一途をたどり、帝都は賑わいを失い、まるでゴーストタウンのように静けさに包まれた。


そんな時、大きな事件が起こる。処理に失敗しておかしくなった人たちやその家族たちにより暴動が起こった。それを軍が魔導機を使って強引に鎮圧したのだ。死者は数十万にもなり、エリシア帝国の歴史に大きな傷を残した。


「狂ってる……ラフシャルも皇帝も、いえ、この国の全てが狂い始めてる」


この部屋にはメアリーと私の二人しかいない。そこで本音が出たのか、絶望した表情でそう呟く。


「この宝石がなければこの国から逃げ出すって手段もあるけど、現状はどうすることもできないわね。狂っていくこの国と運命を共にするしかないのかも」


諦めに似た私の愚痴を、メアリーはすぐに厳しい声で否定した。

「私は嫌よ、もう我慢できない。絶対にこの環境から逃げ出してやる。結衣、一緒に逃げましょう。もしかしたらこの宝石だってハッタリか何かかもしれないし」


その誘いを断る理由はなかった。うんざりしているのは私も同じだ。だけど、あのラフシャルがハッタリなどという中途半端な事をするだろうか、やはり無謀に動くのは避けたい……。

「メアリー、その話にはのるけど、何も考えずに逃げ出すのは危険よ、まずは準備をしましょう。この宝石をどうにかする手を探しましょう」


メアリーも悩みはしたが、最終的にはそれに同意した。それからどう動くは話し合って、それぞれ準備を進めようとした。



しかし、反旗の動きを見透かしたように私とメアリーに新しい指令が下る。それは大規模な作戦で、自由に動く余裕が無くなるものだった。


「本格的に三国同盟を叩くことことにした。結衣を総大将、クルス、スカルフィを副将としてその任に当たれ」


「恐れ多くも皇帝陛下、三国同盟は最近、リュベル王国やヴァルキア帝国と親密であり両国が介入してくることが予想されます。十軍神三人の傘下の兵力では攻略は難しいかと……」


軍務大臣の助言に、皇帝は即答する。

「三人には新たに50万の魔導機軍を与える。新兵だが、ニトロルーディアで強化された強兵たちだ。戦力には十分だろ」

「ははっ、さすがは皇帝陛下、全てお見通しのようで、それほどの兵力があれば誰が指揮をしても任を全うできましょう」


笑える。私たちに断る隙を与えない茶番だ。これでは何か言い訳をして指令の実行を遅らせることできない。


「どうだ、結衣、我の命受けてくれる」


私は、はい、と短く答えるしかできなかった。

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