第560話 英雄/ユキハ
「ユキハ王女、このような事態になったことを心よりお詫びする。人質という立場に立たせてしまっているが、決して貴方を傷つけないと約束します」
囚われの身となり、真紅の機兵の旗艦に搭乗した私にフィストアさんはいつもの優しい表情で謝罪してきた。無双鉄騎団の人たちと接する彼は、嫌な人間にも見えたけど、今はそんな気配すら感じない。
「フィストアさん、貴方の本当の顔はどちらなんですか、紳士な今の貴方なのか、無双鉄騎団に対した時のように、ふてぶてしい表情の貴方なのか……」
「どちらも私ですよ。最優先が目的の達成というだけです。それが最善だと言うなら、悪にも善にもなりえます」
それは本音に聞こえた。人質に囚われ、本来なら憎む相手だというのに、どうしてもこの人を悪く思うことができない自分に気が付いた。
フィストアさんは人質とは思えないような待遇で私を旗艦に乗せていた。特に閉じ込められることもなく、食事は豪華なものが毎食でてくる。さらに無双鉄騎団の人たちとなにやら取り合っていた、英雄という存在、その大事な人たちとのやり取りにも同席させてくれた。
「我々はどれくらい眠っていた、お前たちは何者だ? フェリはどうした? そもそも彼女以外の人間がどうやって封印を解いたんだ?」
紺色の短い髪の青年は強く質問してくる。それに対してフィストアさんはこう答えた。
「私たちはフェリ・ルーディアとゆかりのある者です。世界の危機が迫り、彼女の指示でクリュニー様とダフスタル様のお力を借りるべく封印を解かせて頂きました」
「世界の危機? 巨獣が復活したのか?」
「今は封印はかなり弱まっている状態で、いつ完全に復活してもおかしくない状況です」
「待ちなさい、まだ封印が解かれていないのなら、巨獣の話は後にしましょう。貴方、フェリのゆかりの者といいましたけど、そのフェリ当人はどこにいるのですか?
彼女と話がしたい」
そう言ったのはもう一人の英雄で、輝くような長い銀髪の美しい女性だった。長身ですらっとした体形で、女性の私から見ても見惚れるほどの美貌の持ち主だ。
「フェリは現在、とある組織に囚われています。彼女を救う為にも我々に協力して欲しい」
「フェリが囚われている? あの超越魔女を拘束できるような組織があるとは驚きです。まあ、しかし、そういうことならすぐに解放に向かいましょう」
「申し訳ありません、その前にお二人には是非、協力して欲しいことがございまして」
「我々にはフェリの救出より優先するようなことはない。それはわかっているよな?」
「もちろん承知しております。優先順位ではフェリの救出が最優先なのは我々も同じですが、そのフェリの居場所を知る為に、とある国家にある情報が必要なのです」
「我々に人と戦えというのか?」
「敵はもはや人ではありません、人の姿をしている悪魔です。その悪魔が支配する国との戦いに協力して欲しいのです」
「人の姿をした悪魔とは何者だ」
「お二人もよく知っている人物です。過去の怪物が復活しているのです」
「まさか、ルシファーか!!」
「そうです、ルシファーはエリシア帝国という国を支配し、さらにこの世界を蹂躙する為に動いています」
フィストアさんの話を理解することができなかったけど、どうやら二人の英雄とエリシア帝国を戦わせるのが目的のようだ。
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