第519話 故郷は/ラネル
久しぶりの帰郷がこんな形になるなんて夢にも思わなかった。もうすぐ故郷の町々が見えてくる。結局、私を逃がす為に足止めとして残った部隊とは、合流することなくアムリア王国へと到着した。あの人たちがどうなったか心配だが、通信障害で連絡も取れず、どうすることもできなかった。
このような状況でも、久しぶりに故郷へと帰って来た現実にちょっとした気持ちの高揚を感じる。みんな無事だろうかと祈る気持ちの中、知った城下町が姿を現した。
絶句した── 言葉がでなかった。私の目に飛び込んできたのは知った故郷の姿ではなく、恐怖を感じるほどに破壊された町並みであった。高台の上にある小さな城からは無数の煙が上がり、あきらかに正常な状態ではないことは見てわかる。
お父さんやみんなの顔が浮かび不安になる。破壊された町に動く人影はなく、ちらほらと倒れている人が見えて胸が締め付けられた。
「周囲を警戒せよ、生きている人がいればすぐに救出する」
艦長が部下にそう指示する。私も周りを見渡し、生きている市民を探す。だけど残念なことに見つかるのは明らかにこと切れているであろう人ばかりで、望みのありそうな人すら見つけることはできなかった。
「ラネル大統領、どうしますか、このまま城へ向かいますか」
艦長は気をつかったように私にそう尋ねる。
正直、城へいくのは怖かった。もし、知った者の無残な姿を見つけてしまったら……そう考えると気が狂いそうなほどのめまいを感じた。だけど現実から目をそらすわけにはいかない。私は意を決したように艦長に返事をした。
「城へ向かってください……」
城では大きな戦闘があったようで、アムリア王国軍とは違う連邦軍の兵の死体も多く見かける。大破した魔導機も多く残されていて、戦闘の激しさがうかがい知れた。城壁も大きく破損していてた。どうやら敵の魔導機に内部まで侵入されたようで、戦闘の形跡は城内の奥の方にも多く残っていた。
だけど、ここまで目を覆いたくなるような惨状を見てきたが少しだけ希望があった。それはお父さんやユキハたちが見当たらないこと、そして城の格納庫にあるはずの王室専用ライドキャリア、ドムナが無くなっていること、さらにユキハの魔導機の姿も無くなっていたからだ。よくよく考えれば人口から考えたら町や城にある亡骸の数が圧倒的に少ない、もしかしたらお父さんやユキハの判断で、市民を連れて国を脱出したのかもしれない。
しかし、そうなればアムリア王国を襲った敵軍がそれを追いかけている可能性が高いだろう。早く助けにいかなければと考えたけど、冷静になって滑稽に思った。助けると言っても、今の私にあるのは僅かな兵と、大統領の肩書だけだ。連邦内に号令をかけるとしても通信手段もなく、己の無力さを感じていた。
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