第504話 奇襲により/結衣

少し時間はかかったが、砲門の八割ほどの破壊に成功する。これでマノニ要塞の攻略が一歩進んだだろう。しかし、そう安心したのは束の間、留守を任せていたホロストイから至急の連絡がくる。


「どうしたのですか?」

「本隊が敵の強襲を受けています! 前衛の魔導機大隊は壊滅、主力の師団にも多大な被害がでています!」


まさか、そんな……見晴らしのいい場所に出て下を見ると、確かに大規模な戦闘がおこなわれていた。断続的に爆発が起こり、混乱しているのがここからでもわかる。


「すぐに戻りましょう。このままでは……」


別動隊の全員が早急に戻ることに同意する。留守を守るホロストイを信用していないわけではないけど、相手が相手だけに手に余るようだ。


しかし、急ぎ戻りたいが、砲門群周りにいる敵部隊が放っておいてくれるわけがない。それに崖は登るより降りる方が難しい、さらに攻撃を受けながらとなるとかなり危険な行為に思われる。


「俺が残って敵を防ごう。結衣とロゼッタは戻って本隊を立て直してくれ」


アージェインとエクスランダーの部下一人が残って敵を防いでくれることになった。他のメンバーは急いで崖を降りて本隊へと向かう。



まさかこれほど大規模な奇襲がおこなわれるとは思っていなかったこともあり、完全に油断していた。組織的な反撃もできないまま次々と味方が倒されていく。ライドキャリアも接近を許して何隻か撃沈されているようだ。


「どういうこと?! いくら不意を突かれたからといえ、これほど一方的にやられているなんて」


ロゼッタが戦場を見て納得のいかないようにそう呟く。確かに数はこちらの方が上だし、戦力でも負けていない。ホロストイは無能ではないことから現状が理解できなかった。


「おそらく、アージェイン殿の言っていた強敵でしょうか、恐ろしく強い魔導機がこちらの重要な戦力を破壊して回っているのです。エクスランダークラスの魔導機も歯が立たたず、奴を止めることができません!」


ロゼッタの呟きを聞いていたホロストイがそう説明する。


「私が止めます! その強敵は今どこにいるのですか」


どうやら出番のようだ。十軍神のアージェインですら手も足も出なかった強敵……勝てるかどうかわからないけど、もし、止めることができるとすれば私だけだろ。


「現在、左翼の重装兵団と交戦中です。気を付けてください。強敵の他にもエクスランダークラスの敵が同行しています」


「わかりました。ホロストイはその間に、軍の立て直しに全力を注いでください」

「はい、強敵が止まれば後は私の力でも何とかなります」



強敵の魔導機がどれか、すぐにわかった。赤を主体としたカラーリング、スリムな見た目とは裏腹に、重装兵団の大型魔導機を軽々吹き飛ばすパワー、異質ともいえる存在感のある何かがそこにいた。


武者鎧をきた高貴な武士のような井出立ち、機体を包み込むように揺らぐ赤いオーラ、動きにも無駄がなく、威圧感だけで並みのライダー委縮して動けなくなりそうだ。


私の接近に気が付いたのか、武者鎧の魔導機は味方の重装魔導機の首をねじり切りながら、こちらを向いた。恐怖に似た感情が沸き起こり身震いする。


この魔導機……相当強い……簡単には倒せない、そう確信していた。

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