第495話 歓迎会祭り

入念な準備が終わり、祭りが始まった──


規模が大きくなり、メルタリア国民主導のイベントも行われることになったことで、歓迎会祭りは三日三晩行われることになった。裏方で忙しくなると思っていたのだが、運営はほとんどジャンとメルタリア王国のスタッフがまわしてくれて、当日はただ楽しめと言われた。


「勇太、一緒に周ろうよ」


日本の夏祭りをモチーフにしていることもあり、祭り会場はまさにの雰囲気になっていた。それを見てテンションが上がったのか上機嫌の渚がそう誘ってきた。


「そうだな、昔の雰囲気を味わうのもいいかもしれないな」


夏祭りはいつも渚と楽しんでいたのを思い出して感慨にふける。しかし、すぐに思い出の幼馴染みが現実に引き戻してきた。


「そういえばナナミやアリュナたちはどうしたの? こんな時は勇太に引っ付いてきそうなのに……」

「アリュナはエミナ、清音、リンネカルロと一緒に、何かイベントの手伝いをしないといけないみたいで準備している。ナナミはロルゴとファルマと一緒に美味しい物食べまくるとか言って飛び出していったよ」

「それには勇太は誘われなかったの?」

「誘われたけど、丁度その時、ジャンと話をする予定があったから断ったんだ。まあ、その代わり明日は一日一緒に行動しよって言われてるけどな」

「そうなんだ……あっ、そう言えば自称、勇太の妹のマウユはどうなの、一番に引っ付いてきそうだけど」

「マウユは丁度定期健診の日で、フェリと一緒に医務室にいるよ」

「じゃあ、じゃあ……」

「なんだよ、俺が一人でいるのが悪いみたいに聞いてくるな」

「いや、そうじゃないけど、勇太の周りにはいつも誰かいるから、ちょっと変な感じだから」


確かにフガクにいる時などは常に誰かが近くにいて一人になることはあまりないな。よく考えたら恵まれている環境なのかもしれない。


「とにかく、早く何か食おうぜ、メルタリアの各地の郷土料理の屋台が大量にあるそうだから楽しみなんだよな」

「うん、そうだね」


同意する渚はなぜか嬉しそうだ。なるほど、さてはこいつも昔を思い出してノスタルジーに浸っているな……よし、今日は幼馴染みのこの俺が一肌脱いで、全力で昔っぽさを演出してやろう。


お腹が空いていることもあり、まずは腹に何かいれることにした。俺は大きな肉の串焼きが良いと主張したが、渚はこう言う。

「串に刺して焼いただけの肉なんていつでも食べれるでしょ、それより見たことないような料理を食べましょうよ」


確かにそれも一理ある、ということで、手の甲くらいの大きさのウニョウニョしたナメクジのような物を、青い液体で煮ている料理を食べることになった。正直に言うと、珍しさを優先して選んだおかげで、あまり美味しそうではない。


「渚、ちょっと一口いってみろよ」

「えっ! 勇太が先に食べなさいよ!」

「そうしたいが一口いく勇気がでないんだよ」

「そんなの私だってそうだよ!」


青いナメクジみたいな料理は匂いも独特で、たとえるなら墨汁に酢を混ぜたような感じで、絶妙に食欲を減退させる。渚も同じ気持ちのようで、匂いを嗅いで顔をしかめている。


「よし! ここはジャンケンで決めるぞ!」

「望むところよ!」


結果は三回勝負まで持ち込んでの俺のストレート負け。勝負の途中から導入したポイント制での結果も5-0の大敗に言い訳できるわけもなく、最初の一口は俺に決まった。


恐る恐る青いナメクジを口に入れる。生暖かい温度でさらに恐怖が込み上がるが、伝わってくる味は……。


「美味いかもしれない!」

美味しいといいきれないのは、今まで食べたことのないジャンルの味だったからだ。


「ほら、渚も食ってみろよ」

「えっ! 騙してたら怒るからね……」


疑いながらも渚も一口食べる。入れるまでは不安でいっぱいの表情だったが、口に入ると表情が変わった。

「ホントだ、美味しいかもしれない」


共通の新しい発見を共有した俺たちは、どちらからともなく目を合わせ、笑いあった。

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