第487話 黒幕/ジャン

俺はブッダルガの拘束を外すようにトリスに言った。そして自由になったこの国の大統領に、睨みつけながらこう伝える。

「ブッダルガ、ちょっと昔話をしてくれるか、今ならあの当時に言えなかったことも言えるんじゃないか?」


弟の件は十分に調べたと思っていたが、もしかしたら俺の知らない事実があるかもしれない。思い出したくないことも聞く可能性があるが、覚悟を決めた。


「……いいだろう。しかし、聞いたところで何も変わることはないぞ。お前の本当の仇はそれほど強大だ。そして俺もその一部であるのは事実だからな」


「どんな話になろうと、お前とお前の一族を許すことはない。それは約束しよう」


「ふっ……もしかして、お前の弟の件は俺の一族の誰かが計画して実行したと思っているのか? そうだとすれば、お前もその程度だったと安心できる」

「黒幕はブッダルガとお前のオヤジも名を連ねている自由ルーディア党の上層部だろ、それくらいは分かっている」

「ハハハハッ! 自由ルーディア党が黒幕だと、笑わせるな! 父も俺も党の党首すらも、下っ端の下っ端! お前は黒幕の爪先しか見えていなかったんだよ! いいか、お前の弟は触れてはいけない人物に触れてしまったんだ!」


「その黒幕は誰なんだ。言ってみろよ。どんな相手だろうが、俺は恐れることはない」

「クククッ……いいろだろ。無知なお前に教えてやる。お前の弟の暗殺指令を出したのは『結社ラフシャル』だ!」


「ラフシャルだと……」

大賢者としてのラフシャルの名は子供でも知っているワードだ。結社の名に使用していても驚きはしないが、身内に等の本人がいるだけに妙な感じだ。


「貴様ごときでは名を聞いたのも初めてだろう。結社ラフシャルは大陸全土に影響力のある影の組織だ。その正式メンバーには大国の多くの王族や皇族も連ねる。結社を敵に回すと言う事は、大陸全土を敵に回すようなものなんだよ」

「馬鹿な話だ。大陸全土を掌握するような組織が表沙汰にもならずに存在するなどありえん。絵空事を言うのも大概にしろ」

「ハハハハッ、その通りだ。結社ラフシャルは完全には隠しきれてはいない。お前も知っている名として表に存在している。ジャン、お前にならそれがなんなのか予想できるんじゃないか」


予想できるもなにも、そんなものがあるとすれば一つだけだ。大陸全土に影響力があり、その実態は謎に包まれている組織……。

「ラドルカンパニーか……」

「そうだ。ラドルカンパニーこそ結社ラフシャルの表の姿だ。そしてラドル・ベガこそ結社ラフシャルの総帥と噂されている」

「噂という言い回しをするくらいだから、お前も事実を知っているわけじゃないようだな」

「俺みたいな末端のメンバーが全ての事実など知るわけないだろ。一部の事実を知っているだけだ。仮にも一国の長である俺が末端なんだぞ! それが何を意味しているかわかるか! 結社ラフシャルはそれほど強大な存在なんだよ!」


「強大だろうが関係ない。もし本当にその結社ラフシャルが弟の仇であると言うならそれ相応の代償を払って貰うだけだ」

「この事実を知っても少しも臆すことがないとはな……その余裕はどこから出てくるんだジャン。やはり貴様は……」

ブッダルガは俺に付いて何か言おうとしたが、自分の話題を話すつもりはない。強引に話を変えた。


「まあいい、結社ラフシャルが黒幕という話は分かった。それより弟が殺された経緯を話せ! お前をどうするかはその話で決める」

「……ふんっ、わかった、話そう。俺の知っていることを全て、そして本当の恐怖を実感しろ」


ブッダルガは何かの覚悟を決めたようだ。ゆっくりとした口調で話し始めた。

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