第482話 聖剣/ジャン

剣術指南殿がムサシに到着してからしばらくすると、ハッチが開かれ、エクスカリバーが発進してきた。ダーラン軍は敵となる魔導機の登場に警戒しているのか、ムサシから距離を取るように少し後退する。


俺が戻りやすいようにと、剣術指南殿はこちら方面にいる敵に向かってくる。多勢に無勢と思っているのか、敵は怯むことなく逆にエクスカリバーに襲い掛かる。


剣術指南殿の生身の戦いは先ほど見たが、魔導機ではどのような戦闘をするのか興味があった。しかし、その戦い方は生身の時と大きな違いはなかった。先ほど見た戦闘と同じ感想……俺は脅威的な戦闘力に驚愕して言葉を失った。勇太や他のうちのメンバーたちの化け物じみた戦闘を見慣れているはずなのだが、剣術指南殿の戦いはそれとは別次元の凄さがあった。


エクスカリバーに近づいたダーランの魔導機が、離れた位置からの剣の一振りでバラバラに粉砕される。あきらかに剣の間合いが届く距離ではないが、どうやっているのか謎だ。


あんな動き、魔導機で可能なのか……勇太や渚の動きもかなり人の動きに近いものがあるが、剣術指南殿のそれはレベルが違った。まさに動きは生身の人間そのもの、しかも普通の人間ではなく、超人的身体能力の人間が無駄な動きなく敵を駆逐していた。


個々では勝てないと悟ったのか、五つの敵機が一斉にエクスカリバーに斬りかかった。剣術指南殿は焦る様子もなく剣を振り上げる。五つの敵機は、その動きに連動するかのように、一斉に武器を持つ腕を天に掲げた。理屈ではエクスカリバーが敵の武器をはじき上げたのは理解できる。しかし、肉眼が捕らえたのはまるで見えない力で操られたように手をあげる姿で、一瞬、何が起こったかわからず混乱する。


無防備になった敵機は、体勢を立て直す前に剣術指南殿に斬り伏せられていく。軽く剣を振っているように見えるが、物凄い剣速と威力で五つの敵機は一瞬で両断された。


その光景を見た敵軍の空気が変わるのを感じた。完全にエクスカリバーに恐れをなしている。追い打ちをかけるように剣術指南殿が大技を繰り出した。


剣を体の中心に天に掲げるように構えると、肉眼でも認識できるほどのオーラが立ち上がる。外部出力音にしているわけではないので、剣術指南殿の声が聞こえるわけないのだが、重い、気合のこもった声が伝わるような気概のある動作で剣を横に振りぬくと、三日月型の衝撃波が前方に波紋のように広がる。衝撃波が通り過ぎると、その範囲内にいた敵魔導機が次々と、ズズズッ小さな音を立て胴体がずれていき上下真っ二つに分断された。


刹那、戦場とは思えない沈黙が訪れる。そして、敵軍のライダーたちは、自分たちが、決して戦ってはいけない相手と戦っていることを理解する。一人がぎこちない動きでよろよろとその場から逃げ出した。それをきっかけに、堰を切ったように他の者も、恐怖の対象から少しでも遠ざかろうと走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る