第479話 真実の話/ジャン

俺の父ビルジャンは、息子の暗殺計画の情報を入手してしまった。しかもその暗殺を実行するのは政府組織で、自分の職場の関係機関だった。もちろん、暗殺計画のターゲットの実の父親に、情報が洩れるような馬鹿なことを政府機関がするわけもなく、それは意図的に知らせるものであった。不測の事態で知られて邪魔をされるより、事前に二択を迫るものだった。


息子を助ける為に行動して組織を敵に回すか、見殺しにして残った家族と自分の身を守るか……。俺は、父は後の選択をしたと思っていた。しかし、ルーカの話では、そのどちらでもない三つ目の選択をしたということだ。


父はリトルシャンを助け、さらに家族と自分の身を守る為に行動した。リトルシャンの暗殺計画を妨害し、さらに家族を守る為に、組織上部の人間の弱みを握り、それをネタに安全を確保しようとした。しかし、最終的にはそのネタも潰され、リトルシャンの暗殺は強行された。リトルシャンを失った父はせめて残った家族の安全だけでもと組織と取引したのだ。俺はその組織との取引後の情報しかしらなかった。


父がどうして命がけでルーカを助けたかは真意はわからないが、おそらく組織から命を狙われた彼女のことを知って、自分の家族と重なる部分をみたのだろう。あと、父は昔から娘が欲しかったと言っていた。境遇の重なりがルーカを娘のように思えたのかもしれない。


しかし、ここまでの話から、ルーカが俺を父に会わそうと思った理由はまだわからなかった。それを指摘するとさらに話をつづけた。


「ビルジャンさんは、ジャンさんのことをいっぱい話してくれました。自慢の息子だと……そしてリトルシャンさんの死に対して後悔してました。俺は二人の息子を失ったと話すビルジャンさんはいつも悲しそうでした。そんな時、ジャンさんの所在がわかったと嬉しそうに話してくれました。その時、聞いたのが無双鉄騎団という傭兵団の話です。ビルジャンさんはそれから無双鉄騎団の情報を集めてその動向を見守っていました」


驚いた。確かに諜報活動などもしていた父なら、それくらいの情報を集めることはできたかもしれない。だが、それを実行するとは夢にも思わないことだった。


「脳の病気になり、記憶障害の症状が出て記憶が逆行するまで、嬉しそうにジャンさんの話をしていました。あの戦いは実は無双鉄騎団の活躍で勝利してるとか、また無双鉄騎団が大活躍だったとか、ずっと見守っていたようです」


俺の知ってる父親では考えられない話だ。もしかしたら脳の病気とやらはルーカが思っているより前に進行していたかもしれない。脳の病気で性格が変わると言うのはよく聞く話だ。


「それで無双鉄騎団という傭兵団がこの国へやってきたと聞いた時は驚きました。このチャンスを逃せば、もう二度とジャンさんとビルジャンさんは会うことができないだろうと思ったら、いてもたってもいられなくて……ビルジャンさんはあんな状態ですけど、もしかしたらジャンさんと会ったら奇跡が起こるとも考えてました……」


結果は奇跡など起こることはなかった。ルーカはその結果のショックを思い出したようで、悲しい表情になった。

「そうか……いや、話はわかった。話してくれてありがとう」


そもそもこの話が本当なのか、父の作った妄想なのかわからない。だけど、結果、一人の女の子を助けた事実は間違いないようだ。弟の死の責任を果たしたとは思えないが、少しだけ気持ちが楽になっていた。

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