第480話 あしらう/ジャン
ルーカの話を聞いた後、俺はもう一度父と面会した。おそらく、父とはこれが最後になるだろう。今の俺を認識できない父と会っても意味はないかもしれないが、気持ちの整理の為には必要だと思った。
父はすでにさっき会ったことすら忘れているようで、あえて息子だとは名乗らなかった。八歳時の俺の教師と偽り、何気ない昔話をした。それだけのことだが、自分で思っていたよりすっきりした気持ちにはなった。
すっきりした気持ちと反比例して、弟を殺し、俺たち家族を無茶苦茶にしたブッダルガの一族に対する怒りは増幅される。かつての親友とは、やはり決着をつける必要があるようだ。
今生の別れとなるかもしれない父との最後の会話を終えると、ルーカにも別れを告げて、俺と剣術指南殿はムサシへと戻ることにした。しかし、やはりというか、俺たちを邪魔だと思っている連中が放っているはずがなかった。帰り道、人気のない街道で待ち伏せされていた。
現れた覆面姿の集団は二十人以上はいる。俺たちを取り囲むように素早く陣形が組まれていく。素人の俺でも手練れだと確認できるほどに覆面の連中の動きは洗練されている。さすがの剣術指南殿でも、俺を守りながらこの人数を相手するのは難しいと思われた。しかし、剣術指南殿は涼しい顔でこう俺に言う。
「ジャン、俺の後ろにぴったりと付いていろ。絶対に離れるな」
言われるままに、剣術指南殿の真後ろに密着するほどの至近距離に移動した。剣術指南殿はそれを見て大きく頷くと、剣の柄に手を添えて構えた。
そこから不思議な光景が繰り広げられる。覆面が俺たちに近づいた瞬間、次々に倒れていくのだ。剣術指南殿が倒しているにしては間合いがおかしい。剣が届くはずのない距離でバタバタ倒れる。
「ま、待て!!」
リーダー格だと思われる覆面が声をあげる。通常、暗殺者などは、声を発せず、合図などで意思を伝えあうのが普通だろうが、あまりに異様なやられかたに思わず声が出たと言った感じだろう。さらにリーダー格は驚愕のうめき声をあげた。
ピタリと止まった覆面たちだが、倒れる連鎖は止まらなかった。あきらかに倒れる範囲が広がっている。どんどん倒れていく仲間をみて、生き残った覆面は逃げ始めた。しかし、今度は逃げようとした覆面から倒れ始めた。その結果、一人も逃がすことなく、すべての覆面たちが倒れる結果となった。
「そこのリーダー格は生かしている。いろいろ話を聞くとしよう」
全ての覆面が倒れた後、剣術指南殿はそう言う。
リーダー格に俺が近づくと、うっ、と呻きながらわずかに動いた。確かに生きているようだ。簡単に口を割るとは思わないが、情報を聞き出すと為に起きて貰うとしよう。
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