第477話 過去/ジャン

父の顔を実際目の当たりにすると、嫌でも昔を思い出す──


父が政府の仕事をしているのは知っていた。子供の頃は、ただの下っ端役人だと思っていたのだが、父のしていた仕事は俗に言う表の仕事ではなかった。諜報部と呼ばれる部署で政府のあまり公にできない仕事をおこなっていた。


仕事の内容はともかく、父親が政府関係者ということで、ルーディア値が一般合格値に達していなかった俺でも、政府系の名門学校へと進学することができた。その時に知り合ったのが、今のダーラン共和国のブッダルガ大統領だった。奴とは成績では主席を争うライバルだったが、妙に気が合い親友とも呼べる間柄となっていた。


そんな関係が崩れていったのは、俺の弟であるリトルシャンが、過激な政治活動を始めたころだろうか……リトルシャンのターゲットは腐敗した政治家と、そんな政治家と繋がり利権を貪り食っていた企業であった。ブッダルガの父親は政治家で、ダーラン共和国でも五本の指に入る名士であり、リトルシャンがもっとも嫌う人間の一人であった。


弟の活動は過激だが多くの市民に支持されていた。若干20歳の若きカリスマとしてもてはやされ、多くの協力者が集まり、その影響力は国の権力者を脅かすほどに成長していた。しかし、それはリトルシャンにとって、不幸なことだったかもしれない。


俺はリトルシャンの身を案じて、何度か忠告したことがある。このままだと権力者どもが何をするかわからない。だけど、弟は聞く耳を持たなかった。そこで父に相談したのだが、父は弟の活動に興味を示すことはなく、リトルシャンの選んだ道だ放って置けと無責任な発言をするばかりだった。


そしてその時はきた……リトルシャンは、白昼堂々、人混みのある街中で刺殺された。しんじられないことだが、目撃者もなく、物証も何もでてこなかったと、事件を調査した治安部から発表があった。あまりに不自然なことに、俺は納得できずに自ら調べることにした。そしてブッダルガの父親の関与があることまで突き止めた。


入念に準備された暗殺計画のようで、かなり前から動きがあったようだ。調べていくうちにわかってきたことなのだが、この計画には父の所属する組織が関係していたようだった。それだけでもかなりショックなことだったが、父がこの暗殺計画を知っていたと確信してからは、怒りと悲しみ、そして憎悪が沸き上がる。しかもそれだけではなく、ブッダルガも父親の指示でこの件に関係していることを知ると、これまでの人生全てが嫌になった。


弟は金に力により殺された。ならばその金の力で弟の仇を討つ。俺は金を稼ぐ為に、それまでのキャリアを全て捨てて商人となった。そして父と縁を切り国を出た。


その後は商人として世界を周り、知識と実力をつけていった。ある程度、資金と人脈が成熟したら国に戻るつもりだったが、そんな時、弟と同じ目をしたあいつと出会ったしまった。馬鹿で単細胞の勇太は危なっかしく、放っておけなくここまできたが……──


無双鉄騎団を俺の個人的な復讐に巻き込むのはなるべく避けたいと思っているが、ブッダルガを調査し、父が登場となると否応にも両者の距離は短くなる。場合によっては全ての責任を取ることを覚悟していた。

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