第474話 刺客/清音

ジャンのリストに書かれている人物との面会は、想像以上にスムーズに進んだ。リストに書かれていたワードを相手に伝えるだけで話は簡単に進み、あらゆる情報が集められた。


「ジャンさんって凄いですね。リストにあるワード一言で、みんな態度が急変しちゃんですもの」


リストの三人目からの情報を得た後、ブリュンヒルデは感心したように言う。確かに大したものだ。あれだけ相手の心を揺さぶるワードを、いとも簡単に割り出しているのは驚異の能力だろう。


すでにリスト三人の情報だけでも、ブッダルガ大統領がおこなった裏工作の証拠を得ることができていた。ジャンのリストの凄いところは、一つ一つの情報ではなんの意味もなさないような些細なデータに過ぎない所だろう。これが複数集まれば立派な証拠になるのだから驚きだ。些細なデータなので、提供者もちょっと気になるワードを言うだけで、簡単に情報を提供してくれる。ジャンのリストは本当に良く考えられていた。


「清音師匠……」

路地裏に入り、次のリストの人物に向かっている時、ブリュンヒルデが神妙な表情で異変を伝えてくる。もちろん私も周りに現れた殺気を含んだ気配に気が付いていた。数は十人ほど、気配の消し方からそれ相応の手練れなのが予想できる。


不意に風を切る音が聞こえた。迫ってくる死の気配を見極めて避ける。路地裏の壁に二本の矢が突き刺さった。殺傷力の高い鋼の矢に強烈な殺意を感じる。


「ブリュンヒルデ、トリス、くるわよ」


二人は頷き剣を抜いて襲撃に備える。私は柄に手をやり気配を探る。どうやら囲まれているようだ。状況的に戦闘を回避するのは難しそうだった。


刺客たちはゆっくりと一人、また一人と現れる。全員、黒い頭巾をかぶり顔を隠している。立ち振る舞いからその辺のゴロツキではないのは間違いないだろう。おそらく政府の諜報部隊か軍の特殊部隊……どっちにしろ楽な相手ではない。


合図があったのか、刺客たちは一斉に襲い掛かってきた。私は前方からくる三人との間合いを詰める。三人の刺客の得物は短刀で、一気に密着するくらいの距離まで接近してくる。剣を抜かせる隙を与えないつもりだったようだけど、私はゼロ距離でも抜刀できる。ほぼ密着した距離で剣を抜き、一人の刺客の首を切り裂いた。


刺客たちは近くで首から血しぶきをあげて倒れた仲間を見ても動揺する素振りはない。やはりこの手の襲撃のプロのようだ。マスクをして表情はわからないけど、おそらく無表情だと想像できる。二人の刺客は短刀を逆手持ちで振り回し攻撃してくる。かなりの早さだが私を本気にさせるほどではない、簡単な手の動きだけで全ての攻撃を弾き返した。


刺客の攻撃を強く弾き返すことで、相手のバランスを崩した。素人にはわからないほどの些細なバランスの崩れだが私には十分である。二人の刺客を一閃、同時に斬り伏せた。


三人を斬った時には、ブリュンヒルデとトリスがそれぞれ一人づつの刺客を斬り伏せていた。残る刺客は五人、ターゲットが並みの相手ではないと悟ったようで、その五人は目的を達成することなく逃亡した。





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